研究課題/領域番号 |
21J20290
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
末野 慶徳 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙背景放射 / GroundBIRD / 較正研究 / 超伝導検出器 / MKID / 高速回転 |
研究実績の概要 |
今年度GroundBIRDでは、オランダの研究機関と共同で開発したCMB帯域(145GHz)に感度のあるMKIDを用いて観測を行い解析手法の開発を行った。複数回取得した月の観測データを用いて応答性を評価し、期待通りの感度が達成できていることを確認した。 望遠鏡のアップデートも並行して行い、仰角をリモートで制御できる機構を開発し、現地にインストールした。これによって望遠鏡の全ての動作をリモートで制御することができるようになった。望遠鏡の仰角を変えてMKIDの応答性を評価する“スカイディップ観測”もリモートで行うことができるようになり、GroundBIRDへ新たな較正手法を導入することに成功した。現在はその較正手法の確立に取り組んでいる。また、2023年5月に現在のMKID(1ウエハ)から物理観測を行うためのMKID(7ウエハ)に換装することが計画されており、検出器数の増加に伴う新たな焦点面構造の準備など、MKIDの換装を着実に実行し、迅速に物理観測が始められるように準備を行った。 100GHz帯域に感度を持つMKIDを開発については、京都大学にある「ナノテクノロジーハブ拠点」を利用してβTa及びNbを用いたMKIDの製作を行った。昨年度構築したMKID製作環境を用いて、100GHz帯域の光に感度があるβTaの成膜し、抵抗率測定装置とX線回折装置で評価し、超伝導転移温度がAlよりも低いβTaであることを確認した。また、観測に用いる際はノイズを低減させるために超伝導転移温度の異なるNbとβTaの二種類を用いたハイブリッドMKIDを作製する必要があり、そのためにNbを用いたMKIDの製作手法も確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度にGroundBIRDで用いる本番用の検出器全7ウエハをインストール予定だったが、計画に変更が生じ2023年度に行うことになった。これは、現在インストールされている検出器1ウエハから大幅なアップデートであり、そのために必要な新しい焦点面構造などの準備を行い、検出器の製作が完了次第換装・物理観測を開始できる準備を整えた。また、唯一リモートで制御できなかった仰角を制御するための機構を開発し望遠鏡に実装した。これ仰角を変えることで検出器の応答性を較正する新しい手法をGroundBIRDに導入したことを意味し、大きな進展であると言える。 並行して、取得したデータ解析に関しても月を用いた較正手法を確立し、期待通りの感度が達成できていることを実データを用いて実証した。今後物理観測を行った際に、確実に成果が達成できる展望を得た。現在、仰角を変えながら応答性の評価を行う較正手法、およびGroundBIRDの高速回転による大気放射由来の削減手法の確立に取り組んでいる。 そして、100GHz帯域に感度を持つ検出器の開発に関しては、初期の構想にはなかったβTaという新しい材質に着目して成膜方法の確立を行った。X線回折や抵抗率測定といった新しい評価手法の導入も行い、成膜された金属膜がβTaであることを確認した。同時に実際の運用の際に必須となるMKIDのハイブリッド化を見据えてNbの成膜手法に関しても確立を行った。 以上の成果より進展としては概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、100GHz帯域の光を観測できるMKIDの材質としてβTaに着目し、その成膜方法を確立した。本年度はβTaにMKIDのパターンをリソグラフィーで製作し、MKIDとしての性能を評価する。特に感度のある帯域に関連するパラメータである超伝導転移温度の測定を行い、100GHz帯域の光に感度があることを実証する。 GroundBIRD実験については5月に物理観測用のMKID全7ウエハのインストールを予定しており、これを確実に進める。インストール直後の初期評価を迅速に行い、速やかに物理観測を開始させる。適宜、月などの天体を観測しながら検出器の較正を行う。 また、物理観測の初期データを用いてGroundBIRDの観測手法に最適化した解析手法の開発を行う。高速回転観測で気放射の揺らぎを削減するGroundBIRDのコンセプトを観測データから実証することを目指す。 以上の成果を論文にまとめ、物理学会等で報告する。
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