研究課題/領域番号 |
21J20455
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大野 普希 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ローカルヒストリー / アイデンティティ / 帝国 / ツーリズム / 歴史叙述 / 記憶 / 都市景観 / 旅 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に三つのテーマについて研究を行った。一つ目は、ギリシアの歴史叙述の伝統におけるパウサニアスの位置づけである。具体的には古代ギリシアの歴史叙述についての近年の研究動向を整理し、特に最近注目を集めているローカルヒストリーとの関連で『ギリシア案内記』の特質を明らかにし、2023年3月27日に開催されたローカルヒストリーについてのワークショップ(歴史叙述の場と記憶(A WORKSHOP: HISTORIOGRAPHY, LOCALITY, AND MEMORY)においてその成果を報告した。 二つ目として、ギリシア南部の都市テゲアに関するパウサニアスの記述を考古学の成果と対照するために、2023年3月10日から同月23日まで、ギリシアを訪れ、テゲアを中心にパウサニアスの記述に沿って遺跡を踏査する実地調査を行った。 また、一つ目のテーマについて研究する中で、古代の旅行文学や観光産業についての理解も、『ギリシア案内記』及び、個々の都市のアイデンティティの理解のために必要であることが判明したため、この点についても先行研究と史料の調査を行った。今日のガイドブックにあたる書物が古代ギリシアにおいてもしばしば用いられたこと、今日のガイドに相当する人々が各都市の名所旧跡にあって訪問者を案内したことは知られているが、これらについての体系的な研究は未だ少なく、それらとパウサニアスとの関係についてはほとんど検討されてこなかった。そこで、パウサニアスを中心に、これらの旅行文学や現地の「案内人」の実態を検討し、その成果を2023年2月4日に行われたワークショップ(Diving into Asia Minor: Multiple Sources for the Hellenistic and Imperial Greek World)及び、2023年2月19日に行われた属州研究会例会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度中に査読付き雑誌『史林』に投稿予定であった論文の執筆が未だに終わっていないため、研究が予定通りに進んでいるとは言えない。その理由としては、論文執筆に必要な先行研究の整理が年度中に終わらなかったことがあげられる。とは言え、3月に行ったギリシアでの遺跡の調査によって、遺跡の踏査及び博物館での出土品の調査を行い、論文執筆に必要な考古学的知見を摂取することができた点では進捗が見られる。 また、『ギリシア案内記』とポリス史、ローカルヒストリーとの関係については当初の予定通り、先行研究の整理を進めることができた。その過程で『ギリシア案内記』及びそこに描かれている個々の都市のアイデンティティの理解のためには、旅行文学や、現地の案内人の存在も視野に入れる必要があることに気づき、この点について、主要な先行研究と、関連史料の一部を精読することができた。 他方で、旅行文学や案内人とパウサニアスとの関係についての調査に時間を割いてしまったため、パウサニアスのローマ帝国観については、十分に研究を進めることができなかった。 一年を通して、新しい研究の観点を見つけ、そのそれぞれについて検討を行うことができた点では研究の幅を広げることができたと言えるが、その反面、各観点について集中的に調査を行うことができなかったために、その成果を論文化できていない点は反省しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
2021, 2022年度に査読論文を公表することができなかったため、特別研究員としての3年間の任期の最終年である本年度は、いままでの研究成果を論文化することに重点を置く。その第一として、修士論文及び、2022年度のギリシアでの遺跡の調査の成果を整理して、2023年7月までに査読付き雑誌『史林』に投稿する。また、ローマ帝政期のローマ帝国とギリシア諸都市の関係について近年の研究動向を整理しつつ、ケーススタディとしてパウサニアスのローマ帝国観とポリス観を論じた論文を、12月を目途に査読付き雑誌『古代文化』に投稿する。 加えて、2024年1月以降は、パウサニアスをギリシアの歴史叙述及び旅行文学の伝統に位置づけるための研究を行う。特にギリシアの歴史叙述の展開については先行研究が膨大にあり、近年はローカルヒストリーを重視する立場から新たな史学史像も提示されているため、これらを正確に読解し整理を行う必要がある。その成果をまとめて、2024年度6月に西洋古典学会大会で口頭報告を行う。口頭報告の内容を発展させ2024年度中に査読付き雑誌『西洋古典学研究』に投稿する。また、同時並行で古代から近代に至るまでのパウサニアスの受容史に関する調査も行い、その内容を整理して2024年度10月を目途に『西洋古代史研究』に投稿する。 以上の成果を総合して博士学位請求論文を執筆し、2025年度中に京都大学大学院文学研究科に提出する。
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