研究実績の概要 |
最終年度ではべンジルビニルエーテルのベンジル位にイソプロピル(iPr)基を導入したモノマーを独自に設計した。iPr基の導入によりビニル基の電子密度(反応性)を高めるとともにかさ高さを与え単独重合性を低下させることで、より反応性の低いビニル基と小さな側鎖を有するノルマルブチルビニルエーテル(nBVE)との交互カチオン共重合を実現した。iPr基が結合したベンジル側鎖は、パラジウム炭素を触媒とした水素還元反応を強酸であるトリフルオロ酢酸(TFA)中で行うことにより脱保護することができた。ただし一度生成したビニルアルコール(VA)ユニットがTFAと縮合してしまったため、続く塩基触媒存在下でのメタノリシスによりVA/nBVE交互ポリマーを得た。この交互共重合体はVA/nBVE統計的共重合体に比べて4.5℃高いガラス転移温度を示した。これは交互ポリマーではVAユニットの水酸基とnBVEユニットのエーテル酸素で効率的な水素結合が形成できるためだと考えられる。本研究成果をまとめた論文は高分子化学分野において権威ある雑誌であるACS Macro Lettersに受理された。 研究期間全体を通じ、合理的なVE設計により様々な一次構造制御ポリマーの精密合成を達成した。一年目にはジビニルエーテルとマレイミドからなる交互配列を有する環化ポリマー、二年目には紫外光照射で側鎖を脱保護できるVEとパラトルアルデヒドからなる光分解性交互ポリマー、三年目には上述のVA/VE交互ポリマーの合成に成功し、特徴的な一次構造が物性に及ぼす効果を明らかにした。それぞれをまとめた論文は、Macromolecules, Angewandte Chemie International Edition,ACS Macro Lettersといったインパクトファクターの高い雑誌に掲載され、引用数の増加から注目度の高さがうかがえる。
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