研究課題/領域番号 |
21J20658
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白井 雄 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 昆虫 / ゲノム編集 / 卵巣発達 / CRISPR / Cas9 |
研究実績の概要 |
本研究は、昆虫のメス成虫にインジェクションすることでゲノム編集を可能にし、「誰でも」「簡単に」「あらゆる昆虫で」ゲノム編集ができる革新的な遺伝学的ツールの開発を目的としている。当初は、卵移行タグをCas9タンパク質に付加することで、体腔内に注射したCas9 RNPの卵母細胞への取り込みを促進しようと考えていた。しかし、コントロールとして行っていた、卵移行タグがついていない市販のCas9タンパク質を用いた実験で、なぜか卵母細胞内に効率よく取り込まれることが明らかになった。そのため、2021年度は、市販のCas9タンパク質を用いた成虫インジェクションによるゲノム編集法の開発に主として取り組んだ。コウチュウを用いて、市販のCas9タンパク質とsgRNAを混合して成虫に注射したところ、次世代でゲノム編集個体の作出に成功した。注射のタイミングや試薬の種類・濃度などの検討を行なった結果、従来法(初期胚へのインジェクション法)に匹敵するレベルの高い変異導入効率を達成することができた。また、ユニークな産卵様式のせいで従来法が適用できないゴキブリでも本法をテストしたところ、同様に高い効率でゲノム編集個体の作出に成功した。系統的に離れたこれらの昆虫種での結果は、本法の汎用性を強く示唆するものであると考えられる。この方法をDirect Parental CRISPR法と名付け、現在、さらなる適用可能範囲の拡大を図っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、卵移行タグをCas9タンパク質に付加するというアイディアで計画を進めていたが、このタグは昆虫種ごとに最適化する必要があった。2021年度に開発したDirect Parental CRISPR法では、市販のCas9タンパク質をそのまま成虫注射に用いるため、タグを付加する必要がなく、これまでより簡便な手法であると言える。本法を最適化することにより、コウチュウでの変異導入効率は大きく改善し、従来法に匹敵するレベルまで到達できた。さらに、これまで遺伝子改変が不可能であったゴキブリにおいても本法を適用させ、大きなブレイクスルーを達成できた。これらの結果から当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Direct Parental CRISPR法の適用範囲を明らかにするために、他の昆虫種(チョウ目、ハエ目、ハチ目、カメムシ目など)やその他の節足動物(ダニ、エビ、カニなど)を用いてテストを行う。特に、卵胎生(幼虫が孵化した状態で生まれてくる)、寄生性、植物組織の内部に卵を生みつけるなど、従来法のハードルが高い生物種で実現していきたい。 また、なぜ市販のCas9タンパク質が効率よく取り込まれるのかについては詳しくわかっていない。そのメカニズムを明らかにすることで、さらなる変異導入効率の上昇や、より高度なゲノム編集(外来遺伝子のノックインなど)の可能性を探索していきたいと考えている。
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