研究課題/領域番号 |
21J21188
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡本 幹生 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 古代ローマ / ローマ帝政 / 記憶 / アウグストゥス / カエサル / 古代史 / ローマ共和政 / 政治 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、アウグストゥスや帝政成立に関する研究ならびに古代ローマにおける記憶の研究の先行研究の整理を進め、本研究の立場や視角の確立に努めた。 そして次に、アウグストゥス体制の成立とその実態を述べたほぼ同時代の史料として注目されている、ウェレイウス・パテルクルスの『歴史』を史料として分析していった。 政治史の文脈では内乱期ないし共和政期と帝政期の断絶が強調される傾向にある。その一方で、アウグストゥスの時代が終わったとき、その時代は内乱期といかなる関係で記憶されているかを、本史料をもとに考察した。本著作の執筆の際、ウェレイウスが語る内容を選択し、著作を構成した点に着目し、本著作を彼の歴史観に基づいて再構成された記憶と捉えるという視点で分析を進めた。その結果、以下のことを明らかにすることができた。まず、『歴史』において、ハンニバルと類比されることでローマ人でありながら非ローマ的な残虐さをもつと描写されるスラと、戦争中であれ戦勝後であれ寛容な態度を示すと描写されるカエサルが対比されていることを確認した。次に、『歴史』のなかで、スラとアントニウスが類比されていること、上述のようなカエサルの寛容さがアウグストゥスにも見られるだけでなく、両者のつながりが意識されていることを明らかにした。そこから、本史料において、アウグストゥスは被相続人カエサルをパラダイムとして理解されており、それはアントニウスとの対比でより強調されていると結論づけた。そして、アウグストゥス期が終わった段階において、アウグストゥスの記憶が内乱期を代表するカエサルを枠組みとしたことは、アウグストゥスの時代と内乱(期)の関係が断絶だけでは捉えられず、両時期が不可分の関係にあった側面を指摘した。以上の考察を第89回西洋史読書会大会(2021年11月)にて口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はウェレイウス・パテルクルスの『歴史』の分析から、アウグストゥスや彼の体制を理解するうえでカエサルの記憶が果たした役割を考察し、その成果を第89回西洋史読書会大会にて報告することができた。現在はこの学会報告の質疑応答で得られた知見を検討に反映させ、論文としてまとめ、査読付き学術雑誌『史林』に投稿する用意をしている。 加えて、本年度はローマにおける記憶の研究や次年度の研究対象であるセネカの研究に関する資料の収集に努めた。セネカはアウグストゥスを皇帝の模範と考えており、初代皇帝としてのアウグストゥスの記憶の形成を考察するうえでは、合目的な史料である。そこで、現在はセネカの著作を精読・分析を進めている。 また、長期休暇中にイタリアへの短期間の在外研究を行い、在ローマドイツ考古学研究所所蔵での碑文史料の調査を予定していたが、新型コロナウイルスの変異株の流行により、中止せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
翌年度は、本年度行った学会報告とそこでの質疑応答で得られた意見をもとに、論文を執筆し、査読付き学術雑誌『史林』に投稿することを目標にする。また、本年度から分析をはじめているセネカの著作の精読・分析をさらに進めていき、その成果について学会報告を行う予定である。 また、上記の研究を進めるために、今年度の終わりの春期休暇を利用し、イギリスで短期間の在外研究を行う予定である。1世紀から2世紀初頭のローマの政治情勢に関する研究文献を多数所蔵しており、かつ外国の大学院生でも利用可能なオックスフォード大学のボドリアン図書館の古典学及び古代史の書架やケンブリッジ大学図書館及び同大学古典学部図書館を利用し、春期休暇までに分析を行った史料の時代背景を捉え、考察を深めていく。新型コロナウイルスの感染状況によって渡英が困難な場合は、京都大学図書館の相互利用サービスを利用し、上記の図書館などから必要な文献の取り寄せならびに複写を依頼し対応する。
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