研究実績の概要 |
火山生協酸性土壌に生育するヤマタヌキランの低pH耐性の遺伝的基盤を解明すべく比較発現解析による低pH耐性候補遺伝子の網羅的探索を実施した.ヤマタヌキランと姉妹種であるコタヌキランについて,pH(=5.5, 4.5, 3.0, 2.5, 2.0)と処理時間(0, 1, 6, 12, 24時間)の各条件についてそれぞれ5処理区を設定し,根における遺伝子発現量を比較した.その結果,両種で共通して低pH処理(pH=3.0 vs 5.5)に応じて発現量が上昇した遺伝子の中には,先行研究にて低pH耐性とAl耐性に関与することが指摘されていたSTOP1転写調節因子の下流遺伝子が多く含まれていた.その一方で,低pH条件下でコタヌキランに比べてヤマタヌキランで高い発現量を示した遺伝子には,キシログルカンをはじめとした細胞壁形成に関わる遺伝子のほか,細胞内の過酸化水素調整やリグニン合成・細胞壁伸長に関与するクラスⅢペルオキシダーゼ遺伝子が多く含まれていた.また,ゲノムリシーケンスデータを用いて種間で分化した構造変位領域をゲノムワイドに探索したところ,ヤマタヌキランで約400kbの挿入領域が存在することが明らかとなり,その領域に多数のペルオキシダーゼ遺伝子が座乗していた.以上から,種分化以前からSTOP1下流遺伝子が低pHに応答して発現していた一方で,低pH耐性の獲得にはペルオキシダーゼ遺伝子の獲得が重要であった可能性が示唆された.今後はペルオキシダーゼ活性阻害剤を用いてペルオキシダーゼが実際にヤマタヌキランの低pH耐性に関与しているのか検証するほか,QTL解析等から候補遺伝子のさらなる探索を行う予定である.
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