火山地域に点在する噴気孔周辺にのみ生育する極限植物ヤマタヌキランを対象に,本種の火山性強酸性土壌への適応機構の解明を目指した.前年度までの結果から,本種の適応には低pH(pH=2-3)耐性の新たな獲得が重要であったことや,その低pH耐性の獲得には遺伝子重複によるペルオキシダーゼ遺伝子数の増加が重要な役割を果たしたことが示唆された.そこで,最終年度はペルオキシダーゼ活性阻害剤を用いた水耕栽培実験から,ペルオキシダーゼ遺伝子がヤマタヌキランの低pH耐性に寄与するのかどうかを検証した.実験にはヤマタヌキランと姉妹種であるコタヌキランを用い,発芽後3ヶ月の個体を使用した.処理区には,pH=3.0と4.5の2つの低pH溶液に阻害剤の有無を組み合わせた4つの処理区を設定し,各処理区あたり各種10個体を使用した.以上の実験の結果,姉妹種であるコタヌキランでは阻害剤の有無にかかわらずpH=4.5で生育阻害が認められなかった一方,pH=3.0においては生育阻害が認められた.また,ヤマタヌキランではコタヌキランと同様,pH=4.5では阻害剤の有無にかかわらず生育阻害が認められなかった一方で,pH=3.0においては阻害剤を添加した処理区においてのみ生育阻害が認められた.以上の結果より,ヤマタヌキランの低pH耐性には,今まで低pH耐性との関連があまり知られていないペルオキシダーゼ遺伝子が重要な役割を果たす可能性が高いことが示唆された.以上の結果は,比較的知見の少ない植物の低pH耐性機構の理解に貢献するだけでなく,火山大国日本における植物多様性形成過程を理解するうえでも重要な示唆を与えるものと考えられる.
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