哺乳類の初期胚発生では、卵母細胞内に蓄積された母性因子は受精後徐々に分解され、1細胞期および2細胞期に胚性ゲノムの活性化が起こり、胚性因子が発生を支配するようになる。 母性因子の機能解析を行うために、卵丘細胞を除去することなくGV期卵母細胞へsiRNAを導入する手法として、エレクトロポレーション法を試み、通電条件を検討することで簡便かつ卵母細胞へのダメージの少ないsiRNAの導入法の確立に成功した。この手法によりGV期卵母細胞へH3.3を標的としたsiRNAを導入した結果、7割以上のmRNAの分解が確認された。H3.3のmRNAが分解された胚では受精率に対照区との違いは見られなかったが、2細胞期への発生率が著しく低下したことから、受精後の発生には雄性前核へのH3.3タンパク質の取り込みが不可欠であることが明らかとなった。 胚性因子の解析については、初期胚発生における機能が明らかでなかったMycのmRNAを標的としたアンチセンスオリゴによりmRNAを分解した場合と、転写因子としての活性に必要なMYC-MAXの複合体形成を低分子阻害剤により阻害した場合の両方において、マウス受精卵の発生は2細胞期で停止した。さらに、RNA-seqにより網羅的な遺伝子発現解析を行った結果、MYCの機能を阻害した胚では大規模な胚性ゲノムの活性化における転写や翻訳が阻害されていることが明らかとなった。 さらに胚性因子Pwp1を標的としたsiRNAを導入しノックダウンを行い、発生への影響を検討した。Pwp1は大規模な胚性ゲノムの活性化が起こる2細胞期後期に転写が行われており、Pwp1がノックダウンされた場合胚盤胞期への発生率が対照区の胚と比較して有意に低下し、分化に関わるマーカー遺伝子の発現に変化が見られ、哺乳類の初期発生における最初の分化である内部細胞塊と栄養外胚葉への分化に関与していることが示唆された。
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