研究課題/領域番号 |
21J21991
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋藤 啓次郎 京都大学, エネルギー科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 精錬スラグ / 脱リン反応 / 活量 |
研究実績の概要 |
製鋼における脱リンプロセス等で発生する固液共存スラグの効率的な利用を目指して、本研究では酸化物溶体中の活量の実測、およびモデル構築による活量の定量化を行う。令和3年度は①Ca2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体中の成分活量と②FeO-MgO-SiO2液相中のFeO活量を測定した。 テーマ①では、CaSiO3が共存する時のCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体中のP2O5活量とCa2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体中のFeO活量を測定した。H2/H2O分圧比を制御したAr+H2+H2O混合ガスを1573 Kの反応管に導入し、管内で固体酸化物と溶銅を平衡させた。銅合金中に溶け込んだリンや鉄の濃度を分析することでP2O5活量とFeO活量を算出した。Ca2SiO4-Ca3P2O8中のP2O5活量の測定値は先行研究から報告されている値と整合していた。同様の手法を応用して、今後はFe2SiO4を含む固溶体中のP2O5活量を測定する予定である。 テーマ②では、ジルコニア酸素センサを用いた起電力法によって、1573Kにおける金属鉄共存下のFeO-MgO-SiO2三元系液相中のFeO活量を測定した。本三元系におけるFeO活量の測定値はFeO-SiO2二元系での値よりも上昇していた。FeO活量の上昇は酸素ポテンシャルの増加を意味するため、酸化精錬である脱リンプロセスにとって有利な性質となる。さらに、溶融スラグの溶体モデルを構築し、活量を計算によって算出した。SiO2を含む酸化物融体のネットワーク構造を考慮してモデルを構築したことで、比較的簡単な式によって測定値を再現できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ca2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体中の活量測定について、実験計画時はCa2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体中のFeO活量とP2O5活量を一つの条件で同時に測定する予定だった。しかしメタル中の鉄とリンの濃度差が大きいため、同時測定では平衡到達までの時間が非常に長くなることが判明した。そこでFeO活量とP2O5活量をそれぞれ適したガス分圧条件で別々に測定することにし、これまでにFeO活量を測定することができた。さらに、Ca2SiO4-Ca3P2O8固溶体についてはP2O5活量の測定を行った。メタル中のリン濃度を分析する際にはリンをマトリックス分離・濃化するために、モリブドリン酸を生成し溶媒抽出する方法を用いたが、適切な分析手順について詳細に検討した。得られたP2O5活量の測定値が先行研究における値と整合していたため、本測定手法の妥当性を確認できた。 固液共存スラグの熱力学的性質を理解して固相を有効に利用できれば、省エネルギー化のためにはより低温での操業が期待される。そのため、製鋼の中では低温となる1573Kでの液相スラグ中の活量データも必要だと考え、FeO-MgO-SiO2系の活量測定を研究計画に追加した。液相スラグ中の活量測定ついて得られた成果は2件の学会発表を行い、その内日本鉄鋼協会講演大会で行った発表は努力賞を受賞できた。
|
今後の研究の推進方策 |
Ar+H2+H2Oガス雰囲気下で酸化物相と銅合金を平衡させるガス-スラグ-メタル平衡法によってFeO活量とP2O5活量を測定する方法を確立できた。今後は同様の手法を活用してCa2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体中のP2O5活量を測定する。初年度の検討によって、平衡鉄濃度がリン濃度よりも大きいため、銅中への鉄の溶解反応は平衡到達までに長い時間を要することが判明した。そこで、純銅ではなく初めから鉄を含んだ銅合金を出発試料に用いて平衡実験を開始し、迅速にP2O5活量の測定を行う。この時、これまでに得られたFeO活量の測定値を基に計算して初期に与えるべき鉄濃度を設計する。また銅合金中のリン濃度の分析では、初年度に分析手順を検討したモリブドリン酸溶媒抽出による分離・濃化法を採用する。以上の活量測定実験を固溶体の組成を変化させて行い、Fe2SiO4濃度が活量に及ぼす影響を明らかにする。 さらに、FeOとP2O5活量の測定値に基づいてCa2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体に対する溶体モデルを作成する。Ca2SiO4-Ca3P2O8-Fe2SiO4固溶体中では(SiO4)4-と(PO4)3-のアニオン同士、及びCa2+とFe2+のカチオン同士がそれぞれ置換し合うと考えられる。この構造に基づいて、アニオンサイトの置換率とカチオンサイトの置換率を変数として成分活量の定式化を試みる。 また令和3年度での研究成果についてまとめ、論文投稿を行う予定である。
|