本研究の目的は、ヒト膀胱癌の遺伝的・組織学的特徴を兼ね備えた浸潤性膀胱癌マウスモデルを確立することである。Krt5発現細胞特異的にTrp53変異とCas9を発現するKrt5CreERT2/+:Trp53R172/+: LSL-Cas9マウスの膀胱内にPten・Kmt2cのsgRNAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を注入することによって、膀胱癌が発生することを確認したが、本モデルは腫瘍形成の頻度が低く、発生までに数か月かかるなど、疾患モデルとしては非効率的で実用性の面で難があった。その原因としては、生体内ではCre-LoxPシステムによる遺伝子組み換え、ウイルス感染、CRISPR/Cas9システムによる遺伝子編集の効率が低いことが考えられた。そこで、より高効率に癌化させられる利便性の高い研究モデルとしてオルガノイドを用いることを着想した。さらにnudeマウスに投与したところ高い確率で腫瘍形成を認めるオルガノイド株の樹立に成功した。腫瘍原性は、野生型Trp53 alleleの欠損(Trp53 R172H/ΔまたはTrp53Δ/Δ)およびPtenのホモ接合体欠損と関連していた。さらに、TCGAデータの再解析を行ったところ、p53変異ヒト筋浸潤性膀胱癌(MIBC)の80%以上でTP53のLOHとなっていることを確認した。Trp53 R172H/Δ;PtenΔ/Δのマウス膀胱尿路上皮由来のオルガノイドからの腫瘍は、扁平上皮分化を伴うヒトMIBCの基底サブタイプを再現する、腫瘍内不均一性を伴う組織像を示した。さらに、RNA sequenceの解析中であり、この研究により、p53変異を持つ基底サブタイプの膀胱癌の発生におけるp53 LOHとPten欠損の機能的意義を解明する予定である。本研究は、将来の膀胱癌研究、特に癌免疫学にとって貴重なツールとなる可能性がある。
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