研究課題/領域番号 |
21J22429
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梶原 智明 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 長鎖非翻訳RNA / アンチセンスRNA / 性分化 / 生殖細胞分化 / 転写因子ネットワーク / 有性生殖 / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
苔類ゼニゴケでは、生殖細胞分化の鍵因子BNBの下流で、常染色体にコードされるメス化促進因子FGMYBと、その逆鎖からオス特異的に転写されFGMYBをcisに発現抑制する長鎖非翻訳RNAのSUFが性分化を切り替えるスイッチとして働く。本研究は、FGMYB/SUFモジュールを中心とするゼニゴケの性分化制御機構を解析することで、長鎖非翻訳RNAが生殖系列細胞の雌雄分化を制御する仕組みを解明することを目的とする。 本年度は、ゼニゴケの性分化制御に重要な転写因子ネットワークを同定するため、昨年度に作出したBNB誘導発現によるゼニゴケの生殖系列細胞様細胞の分化誘導系を用いて時系列トランスクリプトーム解析を行った。CRISPR activation(CRISPRa)遺伝子活性化システムを用いて栄養組織からBNBを異所的に発現誘導した結果、時間経過とともに野生型の生殖器官に近い遺伝子発現プロファイルを示し、先行研究で報告されている既知の性特異的遺伝子は野生型と同様の雌雄の発現パターンを示した。この結果から本実験系は、野生型では細胞数の少なさから解析が困難である性分化過程の遺伝子発現を高解像度に捕捉していることが示唆された。また、共発現ネットワーク解析を行い、生殖系列細胞分化および性分化に関与する可能性がある転写因子群を明らかにした。さらに、同誘導系を利用し、CUT&RUN法によってBNB転写因子のDNA結合箇所を解析した結果、オス株において、BNBがSUFのプロモーター領域に結合することが示唆された。SUFはトランスクリプトーム解析においてもBNBの発現誘導後に発現量が増加していたことから、オス株の生殖系列細胞においてBNBがSUFの発現を促進し、逆鎖からのSUFの転写がFGMYBの発現を抑制することで雄性分化するモデルが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼニゴケの生殖系列細胞様細胞を分化誘導する系を用いた時系列RNA-seq解析から、野生株では細胞が少ないため解析が難しい状況にあった、生殖系列細胞の分化・発生過程の遺伝子発現情報を取得できた。これにより、雌雄の生殖系列で共通して発現する遺伝子、性特異的に発現する遺伝子を網羅的に明らかにした。特に、生殖系列の発生初期に発現する転写因子群に関して、ノックアウト株の作出が進行中である。 また、同系を利用してBNBのDNA結合箇所を解析し、本研究の中心遺伝子である長鎖非翻訳RNA SUFのプロモーター領域にBNBが直接結合することを明らかにした。オス株において、BNBがSUFの発現を促進することが、雌性分化の抑制に重要である可能性が考えられた。 学会発表に関しても、国際学会での発表2回を含め予定通り行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
以下について重点的に研究を行う。 ・時系列トランスクリプトーム解析から見出した、生殖細胞形成に関与し得る転写因子群のゲノム編集株を体系的に作出し、生殖器官形成への影響を評価することで、BNB-FGMYB/SUFモジュールを中心とする生殖系列細胞分化および性分化制御に重要な転写因子ネットワークを明らかにする。 ・メスの生殖系列細胞様細胞分化誘導系においてもBNB転写因子のDNA結合箇所を解析し、BNBがFGMYBのプロモーター配列に直接結合するかどうかを検証する。結合が確認された場合、結合に必要なDNAのcis配列をゲノム編集によって破壊した変異株を作出し、BNBのFGMYBおよびSUFプロモーターへの結合が、ゼニゴケの性分化制御に必須であるか検証する。
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