研究課題/領域番号 |
21J22964
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石内 良季 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ブータン / 地域研究 / 社会変容 / 宗教と社会 / 環境 / 農村問題 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ブータン村落社会に暮らす人々が社会の発展・維持や自然資源を最大限に生かすべく、どのように宗教を位置付け、実践してきたのかを明らかにすることである。本年度は、ブータン東部タシガン県での定着調査の開始を予定していたが、コロナ禍により渡航が困難となったため研究計画の見直しを余儀なくされた。したがって、本年度の研究実績は以下の3つに集約される。 第一に、本年度は日本国内における資料調査を実施した。国立民族学博物館および日本ブータン友好協会が所蔵しているブータンの新聞紙Kuenselを参照し、定着調査を行うブータン東部タシガン県の関連記事の収集を行った。それによって、現在、当該地域が抱える環境・宗教をめぐる諸問題がより明らかとなった。また、2008年のブータン民主化移行期における環境・宗教・王制それぞれの動きを整理したことで、村落レベルと国家レベルでの研究対象をめぐるダイナミズムが鮮明になった。 二つ目はリモートによる調査地の情報収集である。調査地での研究協力者と連絡を密に取り合い、定着調査を行うブータン東部タシガン県村落のベースライン調査を実施した。それによって、定着調査で着目すべき幾つかのサブテーマが明らかになった。 三つ目は研究発表および研究内容のアウトリーチ活動である。第16回(2020年度)南アジア学会修論・博論発表会、日本ブータン学会第5回大会、日本南アジア学会第34回全国大会、2021年度みんぱく若手研究者奨励セミナー、2021年度第1回ネパール・ヒマーラヤ研究会において口頭発表を行ったほか、『アジア・アフリカ地域研究』への書評投稿を行った。研究内容のアウトリーチ活動としては、2021年度第6回・第7回ブータン連続セミナーにてコメンテーターを行うなど、一般市民を対象に学内外を問わず、自身の研究内容を広く社会に伝える機会の創出に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はブータン東部タシガン県での定着調査の開始を予定していたが、コロナ禍の影響により渡航が困難となったため研究計画の見直しを余儀なくされた。そこで2021年度はまず、日本国内で手に入る現地一次資料(特に新聞)を用い、ブータンの体制転換期におけるマクロなレベルでの環境と宗教、そして王制の動きを整理した。また、調査地での研究協力者と密に連絡を取り合い、暫定的な村落のベースライン調査を行ったことで、研究対象を当初よりも明確に絞ることが出来た。 また、2021年度はこれまでの研究成果を発信していくことにも重点をおいた。前年度に提出した博士予備論文(修士論文に相当)の内容を、南アジア学会や日本ブータン学会に向け発展的に整理し直し、口頭発表を行った。若手研究者のセミナーでも積極的に口頭発表を行い、新たな知見を得ることができた。2021年度に行った一次資料の調査に基づく発表も行い、これらの結果は定着調査後に論文としてまとめる計画である。このようにコロナ禍の影響を受けながらも、リモートによる情報収集を比較的円滑に行えたほか、口頭発表による研究成果の公表も順調に行えた。一般公開のセミナー等でもコメンテーターを努めたことで、自身の研究内容のアウトリーチも順調であった。 以上のように、定着調査の実施時期は本来の計画から少し遅れているとはいえ、渡航の予定は現時点で明確に立っており、全体として研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、〈前半〉2022年4月26日から2023年3月30日(確定)、〈後半〉同年5月頃から2024年3月頃(予定)までブータン東部タシガン県での定着調査を行う。なお、博論執筆に向けた今後の調査計画は5つの段階に分けており、今年度は第三期までを想定している。 〈第一期 2022年4月から10月〉入国時の隔離期間が終了した後、首都ティンプーにて調査開始に必要な物資調達と書類手続きを行う。その後、タシガン県バルツァム郡へと移動をし、定着調査を開始する。第一期は現地語であるツァンラ語とチョチャンガチャ語の学習に専念するとともに、現地住民と友好関係を作ることを主とし、バルツァム郡概況の把握とサブテーマの発見を従とする。なお、調査にあたってはツァンラ、チョチャンガチャの2つの言語集団のうち、ツァンラを主とし、チョチャンガチャを従とする。また、住み込みをする村落の全世帯を対象とした悉皆調査を行う。村落の選定は第一期の前半で行い、決まり次第、悉皆調査を実施する。具体的には基本情報に加え、親族、移住歴、生業、言語、教育、動産・不動産の所有などを調べる。 〈第二期 2022年11月〉第一期のフィードバック。深めるべきテーマについての調査計画を立てることを主な目的とする。第一期の段階でできるだけ早くサブテーマを選び、それらを中心に本研究のメインテーマである宗教との関連を追う。 〈第三期 2022年12月から2023年3月〉本研究のメインテーマの追求。村落における宗教実践に関する聞き取り調査を本格的に始める。その際、儀礼、神話などの文化的様相に関しては、言語集団、地域を限定せず、その上で、ブータン東部という地域の持つ特殊性を考える。村落の歴史的変遷については、メインテーマである宗教を重点に、仏教僧や高齢者への聞き取りから可能な限り復元を試みる。
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