本研究の目的は、ブータン農村社会がどのような歴史と特徴を持ち、今そこで人々がどのようにして他者と関わりあって暮らしているのか、特に、地域の発展や維持に、人々がどのように宗教を位置付け、実践してきたのかを明らかにすることである。 本年度は昨年度から実施しているブータン東部タシガン県バルツァムでの定着調査の後半を実施した。なお、博論執筆に向けた調査計画は5つの段階に分けており、今年度は第四期と第五期を終えた。 まず、2023年5月から2023年10月までの〈第四期〉では、メインテーマとサブテーマの関係の追求を行なった。特に、調査地域の宗教実践と過疎の関わり、オーラルヒストリーの手法を用いた地域の歴史調査を行なった。 〈第五期〉の2023年11月から2024年3月までは、全体的モノグラフの可能性を考え、ガムリ川沿いのツァンラ語・チョチャンガチャ語同一方言集団における比較資料の収集(広域調査)を行なった。外国人研究者の移動制限といった制約もあり、予定していた調査地全てを訪れることはできなかったが、比較となる地域での全世帯調査も行なうことができた。帰国直前は、首都での史資料収集と首都在住の調査地出身者への聞き取り調査も実施した。 その他、昨年度同様に本年度も研究発表および研究内容のアウトリーチ活動に精を出した。まず、昨年度までの調査結果の一部について、2023年度第1回ネパール・ヒマーラヤ研究会と2023年度日本ブータン学会にて報告を行なった。また、日本ブータン友好協会が主催する「BHUTAN DAY 2023」の企画への参加や同協会が発行する会報へのエッセイ寄稿、現地大学や国際機関での調査報告を行なうなど、アカデミア内外を問わず、自身の研究内容を広く社会に伝える活動にも従事した。
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