研究課題/領域番号 |
21J22977
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大森 真史 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 果実成熟 / ブルーベリー / エピジェネティクス / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
ブルーベリーは房内で不均一に成熟が進むため成熟果実を手摘みする必要があり、生産効率を低下させる要因となっている。果実成熟を人為的に制御できれば、収穫作業の効率化につながる。先行研究によりブルーベリー果実成熟時に発生するグローバルなDNA脱メチル化とそれに伴う成熟促進が確認されているが、その詳細なメカニズムは不明である。本研究は着色を制御する遺伝子について、プロモーター領域におけるDNAメチル化レベルの変化とそれに伴うトランスポゾンの挙動に着目する。 第一の実験として、ロングリードシーケンスによる上述の着色遺伝子近傍の配列解読および果実における経時的なsmall RNA-seqデータの取得を目指した。メチローム・トランスクリプトームデータと合わせて解析を行い、果実成熟とDNAメチル化との関係を考察する。 第二の実験としては証明実験に用いるゲノム編集技術の確立を行った。まず形態形成遺伝子を用いたブルーベリーのシュート再分化系の向上を達成した。本結果はゲノム編集の前提となる形質転換の効率化につながる。また、CRISPR/Cas9ベクターのプロモーターを比較した結果、ブルーベリー内在性プロモーターがgRNAやCas9の発現量を増加させ, その結果として変異導入効率を向上させることが示唆された。さらに証明実験の材料とする予定の花成抑制遺伝子CENのノックアウト個体を獲得し、表現型の観察を行っている。早期開花や連続開花を示す系統が獲得できれば、果実における機能解析が容易となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の実験として、本年度はロングリードシーケンスによる着色遺伝子近傍の配列解読を試みたが、高品質なDNAが得られなかったため、次年度にもう一度DNA抽出およびシーケンスを試みる予定である。果実における経時的なsmall RNA-seqデータについては既に取得した。メチローム・トランスクリプトームデータと合わせて解析を行い、果実成熟とDNAメチル化との関係を考察する。 第二の実験として、証明実験に用いるゲノム編集技術の確立を目指した。まず形態形成遺伝子ENHANCER OF SHOOT REGENERATION (ESR)の過剰発現によりブルーベリーにおいてシュート再分化率の上昇および植物ホルモン非依存的なシュート再生が観察された。また、CRISPR/Cas9ベクターのプロモーターを比較した結果、ブルーベリー内在性プロモーターがgRNAやCas9の発現量を増加させ, 変異導入効率を向上させることが示された。さらに証明実験の材料とする予定の花成抑制遺伝子CENTRORADIALIS(CEN)のノックアウト個体を獲得し、表現型の観察を行っている。 以上より、研究結果は得られているが今後も研究を精力的に行う必要があり、予定通りの進捗状況であるという自己評価とする。
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今後の研究の推進方策 |
実験材料としているハイブッシュブルーベリーは四倍体であることに加え、ヘテロ接合度が高く、ショートリードによる配列解読が困難な領域が存在する。そこでNanoporeシーケンサーを用いて着色遺伝子の近傍配列の解読を試みる。配列取得後は果実成熟中のトランスポゾンの動態をgenomic PCRにより調査する。また、着色遺伝子をクローニングし、カルスや果実などで一過的に発現させることで遺伝子の機能評価を行う。昨年度取得したsRNA-seqはメチローム・トランスクリプトームデータと合わせて解析を行い、果実成熟とDNAメチル化との関係を考察する。具体的には、sRNAおよび脱メチル化酵素によって特異的なDNA脱メチル化が起こる領域を特定し、遺伝子発現に与える影響を推定する。 前年度得られた知見をもとにESRを用いた効率的な形質転換系の開発を行う。また、再分化能力の異なる品種のトラスクリプトームデータを取得しており、両者の差異を決定する要因を探索する。前年度獲得したCEN変異体については表現型の観察を引き続き行い、幼若相や開花特性を調査する。 本研究では果実成熟の人為的制御を最終的な目標としており、ゲノム編集による有用形質を付与した系統の開発を目指している。将来的なゲノム編集技術の実用化に向け、一過的なgRNAおよびCas9の発現によるゲノム改変技術を確立する。栄養繁殖性の果樹におけるゲノム編集では交配によるベクター除去後に品種を維持できないという問題がある。そこで抗生物質による選抜を行わずに再分化個体を得ることで遺伝子組換えではない遺伝子編集個体の獲得を目指す。
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