研究課題/領域番号 |
21J23096
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 将志 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 近赤外発光 / 固体発光 / 共役系高分子 / ドナー・アクセプター / ホウ素錯体 / FRET / アゾベンゼン |
研究実績の概要 |
申請者は、アザ置換フェニレンビニレン配位子(AzL)を含む共役系分子・高分子へ、ヘテロ元素を配位させることで、高効率な近赤外発光性の発現、化学センサーへの応用等、従来の炭素骨格では実現が困難な機能性材料の創出を目的として研究を進めている。 昨年度には、AzLにホウ素を配位させたホウ素錯体のホウ素上への嵩高い置換基の導入が、高分子の固体発光性の向上に寄与するという知見を得たと共に、予備検討にて、嵩高くかつ紫外線吸収能に優れたピレンをホウ素上に導入することで、固体発光性を維持しつつ、FRETを利用した紫外-近赤外波長変換能が発現することを確認した。本年度は、この知見を深めるべく置換位置の効果について検討を行った。これに際し、昨年度に開発した合成手法とは異なる新たなスキームを確立した。この手法を用い、ピレンの一位と二位で置換した二種類の錯体、及びこれを基盤としたπ共役系高分子を合成し、発光性やエネルギー移動挙動に及ぼす影響を評価した。その結果、両高分子において、紫外光によってピレンを励起した際に、AzLを含む共役系主鎖由来の近赤外発光を示した。この際、ピレン由来の発光はほとんど観測されなかったことから、置換位置によらずエネルギー移動効率はほぼ100%であるといえる。一方で、発光効率に大きな違いが見られ、2位で置換した高分子に比べ、先行研究で得たPh基を導入したものと極めて近い値を示したが、1位で置換した高分子は非常に低い値を示した。理論計算により、ピレンと高分子主鎖との立体反発の程度の違いによって、励起状態での緩和過程に違いが生じていることを明らかにした。この結果は、ホウ素上の置換基が主鎖の立体保護的な役割にとどまらず、高分子の物性を改変できる足場となりうることを示唆するものである。本結果は現在論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では研究計画書で提案した3つのテーマのうち、1つ目のテーマであるAzLにホウ素を導入し、ホウ素上の置換基を修飾することによる機能性開拓について、大きな進捗を得た。 本年度では新たに、有機トリフルオロボラート塩を用いたホウ素上置換基変換手法を開発した。この基質は様々な骨格が市販されているボロン酸やボロン酸エステルから1ステップで誘導可能である。さらに、この手法により可能になった2つのテーマを着想し検討を進めた。 一点目に、トリフルオロメチル基の導入を検討した。理論計算により、ホウ素錯体のアクセプター性をより高めることができる可能性が示唆され、ドナー・アクセプター型の高分子にすることで更なる発光の長波長化が期待できる。実際に化合物を合成し物性を評価したところ、吸収・発光極大が共に1000nmを超える材料の創出に至った。波長1000nmを超える光は特に生体侵襲性が高く、バイオイメージング分野で近年需要が高まっており、このホウ素錯体がそのビルディングブロックの候補になる可能性を示した。 二点目に、末端アルキンやアジド基の導入を検討した。これまでの研究結果から、ホウ素上の置換基は、高分子主鎖由来の近赤外発光性を維持しつつ、新たな機能をもたせることができる足場となりうることが示された。そこで、クリック反応を用いたより汎用性の高いホウ素上修飾法を確立し、更なる材料応用を志向した。現時点では、末端アルキンの導入に成功し重合後修飾への展開を試みたが、末端アルキンを残した状態でクロスカップリング反応により重合すると、ネットワーク化により不溶化することが判明した。今後はアジド基の導入を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1つ目のテーマであるホウ素上の置換基に着目した機能性近赤外発光性高分子の創出に関連したテーマにおいて、当初の想定より新たな展開が拓いたため、中心に研究を展開する。 まず、現在までの進捗状況で述べた2つのテーマについて更なる検討を進める。トリフルオロメチル基を導入した高分子については、生体応用を見据え、ナノ微粒子化やタンパクへの吸着で水への分散性を付与し、水環境での発光性を評価する。また、クリック反応の系では、アジド基の導入を進め、末端アルキンを有する基質との反応によりホウ素上が修飾可能か確認する。この手法を利用し、材料応用を見据え、生体関連物質である糖やタンパク質などの導入を行い、近赤外発光性のキャリア材料としての応用可能性を検証する。 加えて、2つ目のテーマである高周期13族元素の導入も進める。これまでの検討で、特にGaについてはGa上の置換基を工夫することで単離できる可能性を見出している。GaはBよりも電気陰性度が低く、Ga錯体はより優れたアクセプター材料、ひいては近赤外発光材料のビルディングブロックになりうる点からも非常に有望である。置換基の検討を踏まえた合成手法の確立を引き続き進め、高分子化、光学特性評価へとつなげていく。それと共に、同じ置換基を有するホウ素錯体と実験、計算の両面から比較し、当初の目的であった中心元素の違いが構造や物性に及ぼす影響についても評価する予定である。
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