本研究では,幅広の測定窓を走査して測定信号を取得するプロセスを帯観測過程と定義し,これとスパース推定手法を組み合わせることで,計測対象(特にスパーススペクトル)を高精度・高感度で推定する技術についての検討を行ってきた. 本年度で実施した研究成果は以下の3点である. まず「帯観測に基づくスパーススペクトル推定」に関する研究について,内容を論文にまとめ,IEEE Transactions on Signal Processingに投稿し,受理された. また,この「帯観測に基づくスパーススペクトル推定技術」を実際のマススペクトル測定系に適用するために行っていた,ポアソン-アーランモデルに基づくマススペクトル推定の研究について,ポアソン-アーランモデルで仮定している観測信号の生成素過程と実際のマススペクトル測定信号の生成過程との間の乖離を新たに指摘し,これを改善するためにポアソン-アーランモデルを包含するより広いモデルクラスである複合ポアソン-ガンマモデル及びTweedieモデルを用いた観測信号モデリングを検討した.その上で,これらの確率モデルに基づくL1正則化付き最尤推定量を求めるためのアルゴリズムの導出を行い,これを実装した.現時点で,提案手法を用いることで対象としているマススペクトル装置(四重極質量分析計)の限界を超える質量分解能,特に2価以上のイオンの同位体ピークを識別可能な分解能,でのマススペクトルを得ることに成功している. 最後に帯観測モデルのタンデム質量分析(MS/MS)への適用について,昨年度検討していたSparse Group Lasso (SGL)を用いたMS/MSスペクトログラム推定のフレームワークに関する具体的な測定プロセスの定式化や最適化アルゴリズムの高速化を行なった.
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