研究実績の概要 |
前半はフレームのあるpreprojective algebraの拡大の次元とKhovanov-Lauda-Rouquier代数(以下KLR代数)の加群圏におけるR行列の位数の関係について手がかりを得るために, KLR代数の加群圏における数値的な予想を立てることが必要であった. 予想の正しさを保証するために多くの具体例の計算が必要となる. 具体例の計算のためにPythonを用いてKLR代数の標準表現の具体的な構造を計算するプログラムを作成した. 具体的には標準加群の基底を決定した上でそれらに対するKLR代数の生成元の作用を書き下すようなものである. このプログラムにより標準加群のブロックの構造に関する予想が立った. 後半はこの予想の証明に取り組んだ. まずはA型の場合における証明を試みた. KleshchevとRamの結果によるとKLR代数の標準加群はgood wordと呼ばれる対象によって分類され, good wordはLyndon good wordと呼ばれる対象の組み合わせによって表される. A型の場合はまずLyndon good wordが簡単であり, cuspidal加群自身も1次元であることがわかるのである種の計算についてはスムーズに行える. A型の場合には, 標準加群の各ブロックにおいて最短のシャッフル置換によって定義される元が存在することがわかり, これによって最高ウェイト圏に対して成り立ちやすい結果の類似を証明することができた. 例えばKleshchevとRamの論文で予想されていた標準加群が単純になる必要十分条件や標準加群の間の射の具体的構成並びにその性質についての結果である. 今回のような具体的な記述は一般の型に対しても拡張できることが期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値的な予想の困難さと具体例の計算の難しさを乗り越える必要があったが, コンピュータによる計算という選択肢を得たことが大きな前進であった. これにより当初の予定とは異なってモノイダル圏側における計算の進捗を得た. また進捗の多くは代数的なものに限られており, 幾何的な考察についてはやや停滞している. 現状も幾何的な考察に入るか代数的な計算を進めるかの分岐点にあるが, コンピュータを援用し代数的な計算を進める計画である. またプログラムは想定よりも巨大なものになったため早い段階で設計を見直す必要がある. これには数ヶ月を要すると考えられるが, 今後の計算を見据えると今支払うべきコストであると考える.
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今後の研究の推進方策 |
まずPythonによって作成したプログラムについて, より多くの機能を実装することで多くの具体例を計算できると考えられる. すでに行数の多い巨大なプログラムとなっているため設計を見直して拡張性を改善する計画である. (設計上の問題を解消後に公開予定) また現状はA型における結果であるが, A型のKLR代数の加群圏は古典的な退化Hecke環の圏と非常に近いため, 結果そのものは古典的な研究に回収される可能性がある. 次に考えることは, この結果の一般の型への拡張である. この拡張における難しさは以下のような点にある: Lyndon good wordの分類はA型の場合はとても簡単であるが, 例えばE型は複雑である. さらにcuspidal表現もA型の場合は1次元であるが, それ以外の場合は大きな次元をもつことがある. 証明にあたって, 型ごとの分類を具体的に見ることなく一般の型の結果を得ることが目標である. この試みは幾何的な解釈をもつことが望ましい: KLR代数は箙の表現空間の上の同変偏屈層の拡大によって定義される代数と同型であり(Varagnolo-Vasserot), KLR代数上の加群圏は同変偏屈層の圏として与えられる. Lyndon good wordは箙の直既約表現と対応し, 各ブロックに現れるwordは対応する箙の表現のJordan-Herlder列を与える. 例えば最も小さいgood wordは表現空間におけるopen denseなlocusに対応し, 最も大きい good wordは最も退化した箙の表現に対応する. 上記の射の構成に対し幾何的な解釈を与えることは我々の最終目標に近づくためにも重要なこ とである.
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