最終年度となる今年度も、初年度、昨年度に引き続き、仏滅後のインドにおける有力部派(教団)の一つ、根本説一切有部が伝持する律蔵である根本説一切有部律の中の「破僧事」について、基礎研究と内容分析を行った。また、2023年2月~2024年2月にはカナダのマクマスター大学に留学し、受入研究者であるShayne Clarke准教授に指導を受けつつ、研究を進めた。 基礎研究については、梵文写本を用い、蔵訳と漢訳を比較対照した批判校訂テキストの作成とそれに基づいた翻訳を進めた。「破僧事」後半部分のデーヴァダッタ説話のテキスト研究については、梵文写本の解読、和訳等については一通り完了し、チベット語訳・漢訳の対照テキストを作成中である。一方、前半部分の仏伝については、内容分析の方に大きく研究時間を割いたため、部分的な批判校訂テキストと和訳の作成にとどまったため、今後基礎研究に重点を置きつつ、随時内容分析を進めることを計画している。 内容分析については、昨年度得られた成果の論文化を進めている。また、留学中には、Clarke准教授の指導のもと、「破僧事」に見られる説話の分析を行う中で、新たな課題も得られたため、それについても次年度以降、検討を進める予定である。 博士論文については未完成であるが、助成により基礎研究と内容分析を大きく進めることができ、博士論文の土台を作ることができた。今後は文献の読解のみならず、より多角的な方面からの考察を行っていきたい。
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