研究課題/領域番号 |
22KJ1760
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
雨森 智子 京都大学, 高等研究院, 研究員
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 神経生理学 / マカクザル / 大脳基底核 / 線条体 |
研究実績の概要 |
本研究は、霊長類ストリオソーム/マトリックスの細胞群の、不安や罰への応答を明らかにし、回路操作によりその相互作用を明らかにすることを目的とする。霊長類ストリオソーム/マトリックスは線条体内で相互に入り組んでおり、生理学的な同定が難しい。このことから、所属する研究室ではストリオソームの細胞に特異的に発現するウイルスを開発するプロジェクトが立ち上がった。研究員はこのウイルス作成に必須である遺伝情報を獲得するために、特に不安に関わることが示唆されるサルの脳部位で、single nucleus RNA-sequencing(snRNA-seq)を行っている。RNA解析のためのサンプリング手順を開発し、現在までに13頭のカニクイサルで脳サンプリングを行った。うち2頭のサンプルを共同研究者がsnRNA-seq解析を行っている。また、げっ歯類のストリオソームにはミューオピオイド受容体が特異的に発現することが知られているが、サルでは分布の対応がわかっていない。よって、ミューオピオイド受容体の発現パターンを2頭のサルの脳切片で組織学的に調べた。その結果、線条体の後方部ではストリオソームと比較的一致して発現することを見つけた。このことから、ミューオピオイド受容体を持つ細胞に特異的に発現するウィルスをサルに注入し、ストリオソームの機能を明らかにするアプローチも行っている。 さらに、不安障害やうつ病に関係する脳皮質領域である、背外側前頭前皮質、前帯状皮質膝下部、前帯状皮質膝前部、線条体、の四領域の電場電位をグレンジャー因果解析によって解析した。悲観的な意思決定時に、背外側前頭前皮質から他領野へのトップダウンの影響が弱まることを明らかにした。研究成果は、Nature Communications誌に受理され掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、snRNA-seq解析の脳切片作りのプロトコルを確立し、それに基づき、2頭のカニクイサルからRNA解析用の脳サンプルを採取し、現在解析中である。また、2頭のマカクザルへ行動課題である葛藤意思決定課題の訓練を完了した。 さらに、これまでデータ解析を行っていた悲観的な意思決定時の辺縁皮質-線条体にわたる神経ネットワークの情報表現やその相互作用に関する結果を論文にまとめ、国際・国内会議での口頭・ポスター発表を行った。さらにその研究論文がNature communications誌(インパクトファクター16.6)に受理された。現在、マカクザルの線条体へミューオピオイド受容体特異的ウイルスを注入するためのプロトコルの作成や器具の設計を行い、ウイルスによる細胞イメージングの準備を行っている。以上のことから、研究の進行・出版ともに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ミューオピオイド受容体に特異的なウイルスをまず一頭のサルへ注入し、そのストリオソームでの分布を組織学的に調べ、ウイルスのストリオソーム特異性検討する。さらに、同じサルで、カルシウムインディケーターを加えたミューオピオイド受容体特異的なウイルスを注入し、そのカルシウム活動をファイバーフォトメトリーで観察し、線条体での細胞の挙動を明らかにする。その後、葛藤課題を訓練済のサルに同じウイルスを注入し、ファイバーフォトメトリーにより、課題遂行時のストリオソーム細胞の機能的な役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
サル用のカルシウムイメージングの機材の選定に時間が必要だったため、今年度に購入ができず、来年度に機材と周辺機器を購入予定である。また、国際学会での研究成果の発表や、ウイルス注入のための器具、チャンバー、グリッドやその他組織染色用の薬剤購入にも使用する。
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