研究課題/領域番号 |
22J00064
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 智法 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 宇宙MeVガンマ線 / ETCC / ガス検出器 / 光検出器 |
研究実績の概要 |
宇宙MeVガンマ線観測は、宇宙の元素起源と暗黒物質の両方にアクセス可能な重要な観測領域である。また、原始ブラックホールがホーキング放射によってMeVガンマ線を放射する可能性があり、これによって暗黒物質を説明できることも非常に興味深い。しかしながら、宇宙ではMeVガンマ線帯域に非常に多くの背景事象が存在し、従来型のコンプトンカメラはこれを除去する能力をほとんど備えていなかった。本研究ではこの問題を解決するため、コンプトン散乱事象の全ての物理量を取得することができる次世代の電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)を開発する。また、これによって約1ヶ月間の気球実験を行い、世界最高感度での宇宙MeVガンマ線観測を行うことが最大の目標である。 本年度は、ETCC検出器開発要素の一つである、MPPC光検出器とガス飛跡検出器の組み合わせ試験を行った。さらに、従来とは違うトリガー方式に変更することで、検出器の不感時間を大きく下げることにも成功し、ETCC検出器として稼働することを示した。また、先行実験であるCOMPTEL実験では光電子増倍管に使われている物質中の放射性不純物から背景事象が混入していたため、本研究でも検出器の開発時点から背景事象について調査した。2018年に行われたETCCを用いた気球実験の観測データを再解析し、シミュレーションと比較することによって背景事象の混入量を定量的に分析することができた。その結果、1MeV付近のエネルギー帯域では検出器に使われていたGSOシンチレータ中の放射性不純物からの寄与が支配的であることを突き止めた。気球実験はNASAのAdEPT実験と共同で行う予定である。AdEPT実験ではガス検出器にu-PICの使用を計画しているため、その試験をNASA/GSFCにて行った。陰イオンガスを用いた試験であったが、期待通りのガス利得を得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ETCC検出器において、大きな開発要素はMPPC回路となっていた。2022年度の研究によって新しく製作したMPPC読み出し回路がうまく機能し、これがガス検出器と組み合わせてETCCとして機能することが証明できた。宇宙MeVガンマ線観測のための検出器としては、これをスケールアップするだけなので、小型であっても試験機として動く検出器が完成したことは非常に大きな成果と考えている。MPPCのトリガー信号のタイミング調整などがまだ必要ではあるが、今後対応していきたい。 また2022年度の研究で、GSOシンチレータ中に放射性不純物が多く混入していることがわかったが、これは予想していない事態であった。次世代ETCC検出器にもこのシンチレータを流用する予定であったので、実装前にこれに気づけたことは非常に大きい。今後は背景事象混入、つまりはMeVガンマ線の感度の面からも検出器開発を慎重に押し進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
2022度の研究から、検出器由来の背景事象が多く存在することが確認されたため、背景事象を除去するための研究を推し進めていく。まず、GSOシンチレータの放射性不純物の混入原因を突き止める必要がある。GSOシンチレータの原料には大量の酸化ガドリニウムが使われており、これに不純物が含有されている可能性が高い。そのため、原料の酸化ガドリニウムの不純物量を測定し、GSOシンチレータと同様の放射性物質が混入しているか調査する。GSOシンチレータの代替品として、放射性不純物の混入量が少ないGAGGシンチレータの使用も検討している。先行研究からGAGGシンチレータは放射化によってMeVガンマ線を多く放射することも指摘されているため、それも考慮して使用の検討を進める。 また、背景事象を除去する他の方法として、CF4ガスを用いたガス飛跡検出器の開発を行う。CF4ガスは光電吸収反応確率が従来使われてきたArガスよりも小さいため、偶発事象を減らすことができる。しかし、CF4ガスはガス利得が得られにくいことが予想されているため、耐電圧性能の高いガラス素材を用いたガス検出器TGV-uPICを使用することを検討している。GSOシンチレータからの背景事象は偶発事象であるため、これによって1MeV付近の感度を向上できる可能性が非常に高い。
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