研究課題/領域番号 |
22J00492
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島川 典 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 天然物化学 |
研究実績の概要 |
脱芳香族化戦略に基づくアミノグリコシド系抗生物質とその誘導体の網羅的全合成研究、およびピリジンの脱芳香族的官能基化反応の開発に取り組み、重要な成果を挙げた。 第一に、脱芳香族戦略に基づくアミノグリコシド系天然物サナマイシンBの全合成研究に着手した。アミノグリコシド系抗生物質は、シクロヘキサン環が酸素および窒素官能基で高度に官能基化されたアミノサイクリトールを母骨格とし、これが糖鎖で修飾された複雑な構造を有する。特に、母骨格上の極性官能基の修飾様式は膨大であるため、アミノサイクリトール母骨格の統一的な化学合成法は未確立である。本年度は、ベンゼンとアレノフィルを用いる光付加環化反応による脱芳香族化と、続く非共役二重結合の不斉ヒドロアミノ化反応を鍵とすることで、サナマイシンBの母骨格を効率的に合成することに成功した。本反応は、ベンゼンを出発原料として多数のアミノサイクリトール母骨格の迅速化学合成を可能とする強力な方法論である。実際に、本戦略を応用して、天然物からの修飾では合成が極めて困難である母骨格の構造改変体の合成にも成功した。続いて、サナマイシンBの糖鎖に相当する糖供与体の立体選択的合成および糖供与部位の構造最適化を行い、高収率かつ高立体選択的なグリコシル化条件を見出した。 第二に、先の脱芳香族化戦略を拡張すべく、含窒素ヘテロ環であるピリジンの脱芳香族的官能基化反応の開発に取り組んだ。高度に官能基化されたピぺリジン環は、医薬品や天然有機化合物に多く含まれる重要な部分構造である。しかし、これらの自在かつ実用的な合成法は限定されている。本年度、アレノフィルを用いる光付加環化反応を応用し、2位に置換基を有するピリジンの脱芳香族化反応とそれに続く非共役二重結合の官能基化反応を見出した。 これらは、複雑天然物や機能性分子の効率的合成における脱芳香族戦略の有用性を示す重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、芳香族化合物の脱芳香族化と続く位置・立体選択的な官能基変換を利用する新規合成戦略の開発を目的としている。最終的に、開発した新戦略を複雑天然物の完全化学合成へと適用し、その有用性を示す計画である。 本年度はまず、新規脱芳香族化反応に基づいた合成戦略の有用性を示すべく、ベンゼンの脱芳香族的不斉ヒドロアミノ化反応を鍵とするアミノグリコシド系抗生物質サナマイシンBの全合成研究を行った。本反応を活用することで、サナマイシンBの母骨格を極めて効率的に合成することに成功した。また、天然物からの誘導体化では合成が極めて困難である、サナマイシンB母骨格の構造改変体の合成も実現した。続いて、糖供与体の立体選択的合成および構造的最適化を行い、高収率かつ高立体選択的なグリコシル化条件を見出した。現在までにサナマイシンB保護体を十分量合成することに成功している。本成果は、複雑天然物の化学合成における新規脱芳香族的官能基化戦略の有用性を示すものである。 第二に、含ヘテロ複素環の新規脱芳香族化戦略を確立すべく、含窒素芳香環であるピリジン誘導体の脱法族的官能基化反応の開発に取り組んだ。本反応で得られるピぺリジン誘導体は、天然有機化合物や医薬品等の機能性分子に数多くみられる部分構造である。本年度は、ピリジン誘導体を出発原料とした脱芳香族的官能基化反応を見出すことに成功し、位置・立体選択的な官能基導入を実現した。本成果は、従来の方法論では合成が困難であったピぺリジン誘導体を効率的に合成可能とするものである。 以上の結果から、本年度の研究は概ね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、昨年度確立した脱芳香族化戦略にもとづき、サナマイシンBの全合成を達成する。その後、サナマイシンB母骨格の誘導体を用いて、サナマイシンBの非天然誘導体を網羅的に化学合成する。最終的に、アミノグリコシド系抗生物質の母骨格改変体が生物活性に与える影響を調査する。 第二に、これまで得られた脱芳香族的官能基化反応の知見をもとに、多環芳香族炭化水素を合成素子とするクアシノイドトリテルペノイドの全合成研究に着手する。複雑天然物の全合成において、炭素骨格形成工程の大幅な削減を可能とする革新的合成戦略の提示を目指す。
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