本年度は、以下の3つの研究課題に取り組み、顕著な研究成果を挙げた。 第一に、MTADを用いるピリジンの酸化的脱芳香族化反応の基質適用範囲を拡張し、生成物の更なる誘導体化を行った。これにより、ピリジン誘導体から、従来法では合成困難であった、多官能基化されたピぺリジン誘導体の合成法を確立した。本研究成果は、学術誌へと発表した。 第二に、2-デオキシアミノグリコシド抗生物質の一種であるサナマイシンBの全合成を完遂した。まず、昨年度確立した糖受容体および供与体の合成経路を最適化した。続いて、3種類の保護基の除去とアジ基の還元を一挙に実現可能とする反応条件を見出した。これにより、合成終盤の官能基変換に必要な工程数を大幅に削減し、ベンゼンから最長直線工程数11にて、サナマイシンBを不斉全合成できた。以上により、芳香族炭化水素の触媒的非対称化にもとづく合成戦略が、へテロ官能基の密集した複雑天然物の全合成において極めて有用であることを実証した。 第三に、高度に酸化されたノルピマランジテルペノイドの網羅的全合成研究に着手した。まず、立体選択的な分子内borylative Mizorogi-Heck反応を用いた第四級炭素構築を鍵として、3環性ラクトンを合成した。続いて、Pd触媒を用いた分子内および分子間炭素-炭素結合形成反応を組み合わせ、天然物の全炭素および酸化度導入の足掛かりとなる官能基を備えた5環性化合物を得た。続いて、電子豊富なベンゾフラン環存在下、化学・位置・立体選択的な酸素官能基導入法を見出した。以上の通り、本天然物群の網羅的全合成に向けて極めて重要な知見を得た。
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