研究課題/領域番号 |
22KJ1776
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
及川 大樹 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | phenol / 糖尿病性腎症 / 腸内細菌 / 酵素 / 阻害剤 |
研究実績の概要 |
糖尿病の進行に伴って発症する糖尿病性腎症は,腎機能疾患の一種であり治療薬が未開発である.食餌由来のtyrosineから代謝されるphenolが本疾患の進行に関与し,phenolはヒト腸内細菌由来の酵素により生成すると考えられている.そのため,本研究では同酵素を阻害する化合物を探索し,酵素機能の解析や動物実験等を通じて,同化合物による糖尿病性腎症の進行抑制・治療効果を評価する. Phenol生成への関与が強く示唆されている腸内細菌由来の酵素(酵素A)に対する阻害様式を模式的に推定するため,コンピュータを用いた阻害剤のドッキングシミュレーションを実施し,Pantoea agglomeransのアポ型の酵素Aを標的として,先に得られた種々の酵素Aの阻害剤をドッキングさせた.その結果,阻害剤として植物由来の化合物Aを用いた際,化合物Aが酵素Aの触媒残基に隣接する位置や酵素Aの基質ポケットを防ぐような位置に結合する解が得られ,この解は速度論解析を基に得られた結果と一致していた. ヒト腸内在性の菌種で酵素Aの相同遺伝子を保有し,phenolを高蓄積する菌種を用いて,前述の阻害剤が同菌種のphenol生成を阻害し得るかを検証した.酵素Aの基質となるtyrosineを含む反応液中で化合物Aと同菌株を嫌気的にインキュベートしたところ,阻害剤無添加時と比較してphenolの蓄積が抑制された.阻害剤の添加の有無に関わらず反応液中の生菌数には有意差が生じなかったことから,阻害剤は菌体の生育に影響を与えず,phenolの生成を抑制したことが確認できる. 今後,モデルマウスを用いた動物実験により,化合物Aをマウスに投与した際の腎機能の回復程度や糞便中のphenolの蓄積量,糞便内の菌叢構造を解析し,化合物Aの同疾患の進行抑制効果を評価する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Phenolを高蓄積する菌種を用いた,菌体由来のphenol生成の阻害試験では,phenolの生成を阻害できる条件を探索できた上,阻害剤が菌体の生育へ影響を与えないこと,菌体に代謝されないことを確認済みである.今後,in vitroで得られた結果を生体に応用する上で必要な動物実験について,実験で使用予定のマウスやその実験計画の準備も既に進められている.
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今後の研究の推進方策 |
前述の阻害剤候補化合物を動物実験用マウスに投与した際の,糞便中のphenol蓄積量の減少効果,腸内細菌叢に与える影響,腎機能の回復効果等を確認し,同化合物をヒトが摂取する上での生理学的応用性を評価したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に実施予定の動物実験,菌叢構造解析,代謝物解析のための経費を十分に確保するために次年度へと繰り越しを行った.次年度は前述の実験での経費使用に加え,消耗品の購入や分析機器の使用経費等で助成金を使用予定である.
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