研究課題/領域番号 |
22J01284
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 宏樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 量子宇宙論 / 一般相対論 / 量子重力理論 / 場の量子論 / 量子情報理論 |
研究実績の概要 |
本年度では、量子宇宙論の様々な境界条件から定義される宇宙の波動関数の摂動の安定性問題を研究した。申請者らは、一般相対性理論を含む多くの重力理論において、一様で等方的な閉じた宇宙のテンソル摂動を考慮すると、摂動による異方性と不均質性が古典的特異点付近で抑制されないこと、量子論的にビッグバン特異点問題を解決する代表的な宇宙の波動関数の仮説である DeWitt 境界条件が摂動的なレベルで望ましい宇宙の波動関数を予言しないことを新たに発見した。 さらに、この摂動の不安定性が重力の高次元オペレーターを持つような高階微分重力理論、特に Horava-Lifshitz 重力においては解決し、テンソル摂動が安定なDeWitt 波動関数が得られることを解析的にかつ数値的に示した。
また、Picard-Lefschetz理論を応用した Lorentzian 経路積分を応用したHartle-Hawking 無境界仮説やVilenkin トンネル仮説の摂動の安定性問題について研究した。Lorentzian 経路積分はBatalin-Fradkin-Vilkovisky 経路積分にPicard-Lefschetz理論を応用した手法であり、ラプス関数の複素平面上に存在する鞍点から摂動の不安定性がもたらされる。申請者らは、Einstein重力を量子化した枠組みにおいて、一様等方な宇宙のテンソル摂動の厳密解を求めることで量子宇宙の摂動問題を再考した。特に、申請者らはPlanck 超物理から期待される修正された分散関係を導入したとしても、量子宇宙創生に伴う摂動の不安定性は解消されないことを新たに指摘した。上記の研究より、量子宇宙創生に伴う摂動の不安定性を宇宙の波動関数の境界条件や重力理論の観点から新たに論ずることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、量子宇宙論の様々な境界条件から定義される宇宙の波動関数について研究を行い、量子宇宙創生に伴う摂動の不安定性を宇宙の波動関数の境界条件や重力理論の観点から新たに論ずる一定の研究成果を挙げた。その成果は、量子宇宙創生の可能性を現在的な物理理論で検証するという研究において重要な意味を持つ。さらに、場の量子論の非摂動定式化を応用した量子宇宙論の研究を始めており、研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、場の量子論の非摂動論的定式化を応用した量子宇宙論の研究を展開する。量子重力の経路積分手法から宇宙の波動関数や原始密度揺らぎ、原始重力波の系統的な解析手法の確立を行う。それと並行して、修正重力理論の観点から量子宇宙創成の可能性を検証する。
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