研究課題/領域番号 |
22J01542
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
明石 望洋 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | レザバー計算 / 力学系 / 非線形物理学 / リミットサイクル / スピントロニクス / ソフトロボット / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究実施事項は、1.リミットサイクルの情報処理能力の理論解析、における解析手法・研究動向の調査と、2.実モデルであるスピントロニクスデバイスと空気圧人工筋肉の情報処理への活用、における数値解析と実機実験である。 一つ目の項目について、ニューラルネットワークの力学系埋込能力を、力学系における位相共役の理論に着目して研究を行う受入研究者の指導学生の隔週セミナーに参加して、同アプローチとその周辺研究のポテンシャルと適用制限の調査を行った。また、共同研究者の該当分野に関する輪読セミナーや各種研究集会への参加を通じて、関連研究を行う国内外の研究者と活発な意見交換を行った。 二つ目の項目に関して、リミットサイクルの情報処理能力の解析とそれを踏まえた活用法の考案を行った。スピントルク発信器による物理レザバー計算に関して、自身の先行研究では、単一素子による情報処理能力の解析を行っていたが、新たに多素子結合系のフレームワークを提案した。多素子結合系においては結合強度や入力強度を調整することで、リミットサイクルに限らないカオスを含んだ多様な分岐現象を呈することを発見した。更に、それらの分岐に誘導される情報処理能力を記憶容量や有効次元といった一般的指標による解析で評価し、単一素子系を大幅に上回る情報処理能力を持ち得ることを示した。そして、提案したフレームワークにより、ウェアラブルデバイスのセンサー時系列処理の実世界タスクを実際に解けることを示した。本結果は国際会議における発表と、自身が筆頭著者の学術雑誌論文としての出版の成果を得た。また、空気圧人工筋肉において、物理レザバー計算を適用することで、リミットサイクルやカオスといった多様なダイナミクス、更にはこれらを含んだ分岐構造といったより大域的な力学系の構造を埋め込み可能なことを実機実験により明らかにした。この結果は国内会議で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論解析における本年度の主たる目標は、解析に必要な理論の修得であった。その点に関して本年度は力学系一般や特に位相共役性に関連する複数のセミナーに定期的に参加でき、必要な理論的土台を構築できた。またこれらの理論を研究テーマであるレザバー計算の分野にどのように活用できるのかという点においても、レザバー計算の論文に関する輪読会において関連論文を調査し概観することができた。従って、本研究テーマの主題であるリミットサイクルにおける理論に着手するための理論の修得は計画通り達成できたといえる。 スピントロニクスと人工筋肉に関する数値解析・実機実験に関しても、計画通り、あるいは計画以上に進展している。スピントロニクスにおいて、今年度は10素子という、比較的ミニマルな設定でダイナミクスの定性を確認し、結果的に分岐現象に基づく多素子結合系の効果的な活用法を考案し、学術雑誌として成果化までを行うことができた。今後、研究を展開する上での課題は数百、数千といったより多素子の実行を可能にするシミュレータの環境構築である。現状のシミュレータは素子数に比例する計算時間を要し、現状数十といったオーダーが限界である。この点に関して、今年度に平行してシミュレータの改修も行い、次年度以降のより大規模な数値実験の体制も整えることができた。人工筋肉に関しても今年度は、実験環境を持つ株式会社ブリヂストンの協力のもと、単一人工筋肉の実験環境を整え実験のサンプリングレートの向上やセンサーの安定性の向上など、次年度以降の実験も踏まえた環境構築を行えた。今年度に行った閉ループによる実験も主要な結果は出揃い、論文化可能な段階まで進んでいる。 従って、数値解析・実機実験においても、一つの区切りがつき、成果化・成果化の目途が立つ所まで進んでいる。更に、翌年以降のより発展的な解析を行う環境構築も行え、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
理論解析に関しては、今年度調査した研究手法を踏まえて、リミットサイクルに対する解析を行う。特に理論的扱いが容易な数理モデルを構築し、そのモデルに対して系統だった数値解析も平行し行うことで、周波数に対するそこに埋込可能な力学系の関係など、解析の方向性を調査・調整する予定である。 スピントロニクスに関しては今年度に数百・数千素子の大規模モデルを扱えるシミュレータを構築したことで、例えばMNISTと呼ばれる画像認識課題のような、より複雑な課題に対しても、適用可能な見通しが立った。そこで、得られた理論的な知見を、インパクトのある形で提示できるよう、MNISTのような画像認識課題にも適用できる形でフレームワークの改修を検討する。 人工筋肉においては、単一人工筋肉で今年度得られた成果を論文化することを直近の目標とし、原稿作成や必要な追加実験に着手する。またこれらと平行して、ロボットアームのような構造物において物理レザバー計算を行った際に、より高次元のダイナミクスや高次元特有の力学系現象が埋め込めないか。という点も調査する。
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