研究課題
年次計画に基づき、病原性細菌のエネルギー生産を担っている重要酵素ナトリウム輸送性NADH-ユビキノン酸化還元酵素(以下NQR)の機能と構造を解明するために研究を行なった。まずNQRの機能を説明するために重要な精密立体構造情報を得るべく、大阪大学の岸川博士とクライオ電子顕微鏡を用いた共同研究を行なった。その結果、2014年に発表されていたX線結晶構造論文では不明瞭であった重要構造を全て解き明かし、NQRの機能において重要な役割を果たす構造の柔軟性を証明することに成功した。また特に阻害剤が結合したNQR構造を2種類も解明した。この結果はこれまでに申請者が独自に合成した阻害剤プローブを用いて提唱した阻害作用において重要な構造モデルを実証するものである。これらの結果をまとめて国際誌Nature communicationに発表することができた。さらに、「基質UQの側鎖構造がNQRのナトリウム輸送と電子伝達の共役機構において重要な役割を担う」ことを発見し、これを証明すべく独自で合成したUQアナログを用いて生化学実験を行なった。そしてこの結果を国際誌BBA Bioenergeticsに発表することができた。またこれらの結果を農芸化学会、農薬学会、生物物理学会、農薬デザイン研究会および生体エネルギー研究会で発表し、その多くで優秀発表賞を受賞することができた。
2: おおむね順調に進展している
今までの研究成果から得られた最新の精密情報をこれまでの先行研究のデータに照らし合わせて、より綿密に課題を設定することで、的確な実験計画を再構成して最終目標へ邁進できた。しかしながら構造解析については、現在の構造だけでは酵素機能の根幹である電子伝達やナトリウム輸送、阻害機構を十分説明することはできない。そこで先行研究の酵素反応速度論に基づいたデータや自ら合成したケミカルツールによる実験結果を踏まえて、さまざまなサンプル条件や解析手法を検討した。特に電子伝達時の構造について解析すべくいくつかの還元型構造の取得も試み、重要な情報を得ることができている。UQの側鎖とナトリウム輸送の関連性については、UQ側鎖の詳細な作用機構を明らかにするべく研究を推し進めた。そこで、UQ側鎖に機能性構造を組み込んだツールを自ら合成し、これを用いて生化学実験およびMS解析、変異株を用いた実験を行ない結合部位を概ね同定できている。また、クライオ電子顕微鏡を用いて直接UQの結合を検出することも試みている。
今後は、構造解析および独自の合成プローブを用いた解析によりNQRの酵素反応素過程を捉えて反応機構および阻害機構の全容を把握する予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics
巻: 1863 ページ: 148547~148547
10.1016/j.bbabio.2022.148547
Nature Communications
巻: 13 ページ: -
10.1038/s41467-022-31718-1
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-07-27