本研究は、鎌倉幕府の御家人支配(御家人制)の実態を解明することを目的とする。鎌倉幕府は将軍と御家人の二要素を基礎として成立する。唯一の主人である将軍と、その他である御家人との結びつきは均質でなく、濃淡が当然存在する。その濃淡の具体的様相と、濃淡が発生する要因について検討するため、本研究では一般に鎌倉幕府の支配権が強く及び、御家人制においても多様なあり方が想定できる「東国」やその類似地域に着目した。以下、本年度の研究成果について、おおまかに三項目に分けて記載する。 1.鎌倉幕府による公田数の把握:御家人役は御家人が将軍に対して奉仕する「奉公」にあたる。その賦課基準は御家人所領内の公田数であるため、幕府が把握する公田数の変動を、基礎台帳となる大田文等の史料から比較検討を行った。なお、史料の残存状況から、幕府の支配が「東国」に類似する九州を中心とした。結果、鎌倉初期から公田数が固定される庄領に対し、国衙領は更新が続けられるが、14世紀以降の幕府は国衙領も含めて12世紀末~13世紀前半の公田数を利用する傾向があることが分かった。また、関連して九州地域の御家人支配も再考した。 2.儀礼からみる幕府内ヒエラルキーの変容:鎌倉幕府は将軍と御家人の二要素からなり、全ての御家人は横並びという鍋ぶた様の組織構造であることを建前としてきた。この前提について、正月儀礼の一つであるオウ【土偏に完】飯の空間構造を観察し、執権・連署の着座位置が時頼期以降は他の御家人と隔絶することを指摘し、幕府の組織構造の変容を明らかにした。 3.「東国」地域史料の基礎的調査:前年度行った信濃国諏訪大社上社社家関連史料の調査について、得られた知見をまとめ公表した。
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