核酸とタンパク質の相互作用は、マイクロ秒からミリ秒のタイムスケールで起きる局所的なダイナミクス、特に塩基対の開閉が初期段階として重要であることが知られている。本研究では、RNA三重鎖構造の解析に先駆けて、DNA三重鎖構造の塩基対開閉ダイナミクスを研究するための分子込み合い環境での解析手法を開発した。オンレゾナンスR1ρ緩和分散測定および水-イミノプロトン磁化移動実験を用いて、DNA三重鎖構造における塩基対の開閉ダイナミクスを観測した。塩基対の開状態と閉状態の寿命(τopenおよびτclosed)の誤差推定をモンテカルロ法を使用して行い、開状態と閉状態の自由エネルギー差(ΔGopen)と全体の融解温度(Tm)の相関を分析した。 この一連の測定と解析は、分子込み合い試薬を用いた環境下で行い、実際の細胞内環境を模倣した状況でDNA三重鎖構造の各塩基対の開閉状態の寿命およびΔGopenを評価することに成功した。分子込み合い環境を再現するためにFicoll 70を用い、その添加がDNA三重鎖構造のτopenおよびτclosedを増加させ、結果としてΔGopenを高めることが確認された。また、Tmの上昇も観測され、これはFicoll 70の添加がDNA三重鎖構造の開閉状態の寿命を延長し、結果として構造全体の安定化に寄与することを示している。これにより、排除体積効果が核酸のフォールディング構造の安定化に果たす役割を残基の解像度で捉えることに成功した。 この研究で得られた知見は、塩基対の開閉ダイナミクスが核酸とタンパク質の相互作用においてどのように機能するかを理解するための重要な手がかりとなり、実際の細胞内での相互作用メカニズムを解明する基盤を提供する。
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