太陽高エネルギー粒子(SEP)は、太陽面で発生する爆発現象(太陽フレア)や、それに伴うプラズマの放出現象(コロナ質量放出; CME)によって、粒子が高エネルギーにまで加速・放出される現象である。このうち、CMEによって放出されるSEPは、CMEが形成する衝撃波の広がりによって、フレアに伴うイベントに比べて広範囲で観測されるほか、地球軌道付近で観測される粒子のエネルギーやフラックスも大きい傾向にある。一方で、SEPの詳細な発生メカニズムや伝播過程は未だ明らかになっていない。本研究では、CME由来のSEPが示すイベントごとの多様性、特に、太陽面付近でCMEが発生してから粒子が地球軌道付近に到達するまでの時間である、SEPの到達時間について、何が到達時間を変化させるのかを明らかにするため、観測データの詳細な解析を行なった。SEPの特徴はおおよそ、発生源になったCMEの発生位置(太陽面経度)や放出速度から決定されることが、これまでの研究から知られている。本本研究では、同様の経度・速度で発生したCMEを由来とするにも関わらず、粒子(陽子)の到達時間が異なるイベントそれぞれ一例ずつに着目した。両イベントの発生前後の粒子観測、太陽面観測、太陽電波観測を総合した結果、うち一例では到達時間が平均的な値から大きく遅れており、その遅れの原因は、粒子の伝搬過程ではなく、粒子の放出が遅れたことにある可能性が高いことが判明した。加えて、CMEが放出されたあとに緩やかな加速を示しており、CME駆動の衝撃波における加速効率(アルフベンマッハ数)が緩やかに成長した結果として、粒子の加速・放出が遅れた、というモデルで説明可能であることを示した。そのほか、CME同士の相互作用や、CMEの放出源となった活動領域の違いが、陽子の放出時間に影響を与えた可能性についても示唆を与えた。
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