研究課題/領域番号 |
22J12779
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
八木 渉 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 境界潤滑 / ポリマー系添加剤 / 添加剤吸着層 / MEMS |
研究実績の概要 |
研究目的であった「境界潤滑状態における添加剤吸着層の純せん断特性の解明」、すなわち、しゅう動する二面が接触するような摩擦状況において、摩擦を低減するために添加された潤滑油添加剤が表面上に形成する吸着層が直接的に摩擦された場合、どのような特性を有するのかを、ポリマー系添加剤を用いて解明した。用いられた手法は、半導体製造技術として広く用いられるMEMS創成技術で作製された厚さ5 umかつ表面の粗さがナノオーダーで平滑な試験片を用いて、しゅう動する二面を静電気力によって密着させて摩擦をするという手法であった。それと同時に油膜の静電容量を測定することで、二面間に存在する油の厚さを測定した。その結果、ポリマー系添加剤を添加した油は、何も添加していない基油と比べて油膜厚さが10から20 nmほど厚い状態を維持することが示された。また、いずれのポリマー系添加剤を加えた場合も、小さい摩擦係数を示し、添加剤吸着層のすべりが摩擦を低減することが示された。さらに、特徴的な性質として、ポリマー分子一つ一つを構成する原子の数の多さを表す分子量が大きいポリマー系添加剤を加えた場合、摩擦前の油膜厚さは最も大きかったものの、摩擦後の油膜厚さが摩擦前に比べて小さくなることが示された。分子量の大きいポリマー系添加剤添加油の摩擦後の油膜厚さの値は、これよりも分子量の小さいポリマー系添加剤添加油の油膜厚さと同程度になっていた。このことから分子量の大きいポリマー系添加剤は摩擦でははぎとられることがないくらい強く表面に吸着している層と、その層の上から、弱い吸着力でなんとか吸着している層の二種類の層で全体が構成されており、その弱い吸着力で吸着している層が摩擦によってはぎとられたものと考えられた。この結果は、実際の環境で使用するポリマー系添加剤の分子量を設定するうえで有意義な知見を与える結果であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度計画当初は、摩擦試験と同時に油膜厚さの測定を行うことの重要性に注目し、等色次数干渉縞を利用した膜厚測定機構を取り入れる見込みであったが、厚さ5 umのフィルム状試験片が想定よりも測定に影響を与えるほど厚いことが原因で頓挫し、屈折率の差を利用する分光エリプソメトリーも検討したが、同様に困難であったことが原因で計画遂行が遅れた。しかしながら、交流電圧を加えながら周波数を変化させ、静電容量を測定することで油膜厚さを推定する複素インピーダンス法を取り入れたところ、おおむね油膜の増減を測定可能であることが示された。これによって当初よりも研究計画が遅れたものの、おおむね順調に研究を進めることに成功した。前年度はポリマー系添加剤の摩擦試験および油膜厚さの測定によって一定の成果が得られた。今年度は同様の手法を取り入れながら、トライボロジー分野で注目されているフラーレン添加油の摩擦特性を評価する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はトライボロジー分野で注目されているフラーレン添加油を研究の対象として、これまでの摩擦および油膜厚さの測定手法を用いて、境界潤滑下におけるフラーレン添加油の摩擦低減メカニズムの解明を研究目的とする。また、フラーレン添加油の摩擦特性評価においては、マクロな摩擦特性も評価してメカニズムの検討を行う。具体的には、初めに、フラーレン添加油の化学特性評価のために、紫外可視分光光度計やX小角散乱法を用いてフラーレンの油中における分散状態を把握し、その後、中性子反射率法や、原子間力顕微鏡による油中表面観察によって、フラーレン分子の表面吸着性の評価を試みる。さらに、境界潤滑下で摩擦低減効果を顕著に発揮すると言われているフラーレン添加油の能力を、面圧の高い点接触状態および接触面積の大きい面接触状態といった二種類のマクロな摩擦試験手法を用いて摩擦特性を確認する。最後に、この境界潤滑状態をミクロなスケールで切り分けて評価することが可能な、前年度から実施しているフィルム状試験片を用いた摩擦手法によって摩擦特性および油膜厚さの関係という観点から評価を行うことで、フラーレン添加油の摩擦低減メカニズムを提案し、フラーレン添加剤分子の設計に貢献することを目指す。
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