本研究で新たに考案したベルの不等式の検証実験で重要となるのは測定効率であり、LHC-ATLAS実験ではこれまで測定できなかった低い横運動量領域まで、ミューオン、D*粒子の測定効率を改良する新規開発が必要となる。昨年度まででミューオンの測定効率を制限しているハードウェアトリガーの改良に成功し、取得した実データで新トリガーの効率を詳細に測定することに成功し、効率上昇を実証できた。しかし、2023年7月にLHC加速器の通常運転において真空漏れが起こり、その修理のため運転計画が遅れたため、本年度中には本研究が目指していた低パイルアップ特別運転が行われなくなった。そのため急遽、第2期運転での低パイルアップ特別運転、さらに、低エネルギー特別運転も加えたデータの解析を開始した。LHC-ATLAS実験でこれらの特殊な第2期運転データからD*粒子とミューオンからB中間子の再構成を行ったのは初めてであった。データの理解を着実に進め、B中間子対生成の候補事象を高い純度で選別することに成功した。また、B中間子対生成の候補事象の崩壊時間分布から背景事象による影響を補正してベルの不等式の検証に用いる非対称度をもとめる一連の方法を確立した。さらに、最大乖離点だけでなく非対称度の分布自体にフィットすることで最終的なベル不等式検証の感度を大きく上げる方法も確立した。 以上のように、LHC加速器運転の遅れという想定外のことがあったが、代わりに第2期データを使用して、B中間子対生成事象の再構成手法の確立、崩壊時間分布を用いたベル不等式検証の感度を上げた解析手法の確立など、当初の計画に沿った成果を上げることができた。研究結果について2年を通じて、日本物理学会2件、国際学会2件にて、講演を行った。
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