イネ科植物の細胞壁を構成するリグノセルロースはフェルラ酸(FA)を介して高度に架橋されている。そのようなFA架橋構造の形成がイネ科植物の細胞壁の機能やバイオマス利用特性に大きく寄与していると考えられているが、その分子レベルでの理解は進んでいない。本研究では、まず、イネ科植物におけるFA架橋構造形成機構の解明を目的としてイネのFA生合成酵素の同定を進めた。次に、FA架橋構造が細胞壁の機能や特性に及ぼす寄与の解明を目的としてFA生合成を抑制したゲノム編集イネのリグノセルロース超分子構造やバイオマス利用特性の解析を進めた。 昨年度までの研究で、イネの細胞壁架橋構造の形成に寄与するFA生合成酵素(アルデヒドデヒドロゲナーゼ;ALDH)の同定に成功するとともに、野生株と比較して細胞壁結合型FA量が顕著に減少したALDH欠損ゲノム編集イネ株の作出に成功している。さらに、ALDH欠損イネ株ではFA 架橋構造の減少と共に、細胞壁中のセルロースの結晶性が低下することが分かった。 令和5年度は、ALDH欠損イネ株を含むFA架橋構造を低減させたイネ株及びリグニンの芳香核組成を改変したイネ株の細胞壁試料について固体NMR法やX線法による更なるリグノセルロース超分子構造と利用特性の比較解析を行なった。その結果、ALDH欠損イネ株を含むFA架橋構造低減イネ株では、セルロースの結晶性の低下に加えて、セルロースの分子運動性が向上することが分かった。また一部のFA架橋構造低減イネ株では、セルロース繊維のパッキング構造に顕著な乱れが生じている等を明らかにした。さらに、ALDH欠損イネ株を含むFA架橋構造低減イネ株は、野生株と比較して高い細胞壁糖化効率を示すことが分かった。以上の結果から、イネ科植物においてFA架橋構造が細胞壁の固体高次構造やバイオマス利用性に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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