研究課題/領域番号 |
22J13778
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大野 哲之 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 線状対流系 / マルチフラクタル / 水蒸気フラックス / 乱流運動エネルギー / Xバンド偏波レーダ / 氷相降水粒子 / 雲解像モデル |
研究実績の概要 |
本年度は線状対流系の組織化過程におけるマルチフラクタル性の時間変化とその物理的なメカニズムの関連性について解析を行った. 雲解像モデルによる2012年7月亀岡豪雨の再現実験を対象にマルチフラクタル解析を行った結果,水蒸気フラックスは豪雨開始直前から開始後にかけてマルチフラクタル性が強まることが示された.頻度分布の時間変化を考慮すると,対流系の形成と同時に下層の水蒸気フラックスが増大していることとマルチフラクタル的な変化が対応していることが示唆された.また乱流運動エネルギーは,豪雨開始直後に強いマルチフラクタル性を示した.一方で,帯状の降水域が形成される前から時間的に準定常的な状態が維持されることが示された.さらに,対流系が持続的に発生する時間帯において,乱流運動エネルギー生成に関わる浮力項が下層で明瞭なピークを持っていた.水蒸気フラックスが増大することで下層の対流不安定性が強まり,持続的に対流が発生しやすい場が維持されていたことを示唆するものと考えられる. さらに国土交通省管轄のXバンド偏波レーダ観測網XRAINの観測データを持ちいて氷相降水粒子分布を推定し,そのマルチフラクタル性の時間変化を解析した.質量の大きい粒子であるあられについて,帯状の降水域が拡大するとともにマルチフラクタル性が弱まることが示された.この原因は対流に伴い下層の湿潤空気や過冷却雲粒が上層に輸送され,質量の大きいあられ等が生成される領域が拡大することが考えられる.降水粒子の質量には一定程度の上限があるため,対流系が発達した後の氷相高水位粒子分布では粒径分布が概ね一定に保たれることでスケーリング性に差異が少ない(マルチフラクタル性が弱い)状態が保たれたことが示唆された. 線状対流系とは異なる環境場で発生するマルチセルとの比較から,マルチフラクタル解析が線状対流系発生の早期探知手法への応用可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は線状対流系が組織化する過程におけるマルチフラクタル性を,雲解像モデルを用いた再現計算,およびXバンド偏波レーダ観測の双方向から解析することができた.線状対流系を始めとする気象現象は多数の要素が相互作用を為すため本質的に複雑系である.こうした複座右傾科学の視点からその現象説明や防災に資する研究に挑戦した例は本研究以外にほぼなく,その第一歩としてマルチフラクタル性の時間変化を定量的に解析したことは評価に値する.また,線状対流系とは異なる環境場にて発生するとされるマルチセル事例について同様の解析と比較を通じて,線状対流系の組織化を特徴づけるマルチフラクタル特性について解析を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は複数の線状対流系事例についてマルチフラクタル解析を通じて,線状対流系の発生におけるマルチフラクタル的な差異について検証する.気象庁が提供する現状のメソモデルを境界値とした再現計算のみならず,再解析データを利用した再現実験を行うことで,より多くの事例を対象とした解析や,初期値が異なることによる予測の不確実性との関連性を検討することが可能になることが見込まれる.また,線状対流系の組織化度合いを評価する指標を新たに提案することで,これまでに考察してきた各物理量のマルチフラクタル特性を統括し,組織化過程を説明するような枠組みの構築を目指す.
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