研究課題/領域番号 |
22J13982
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福井 悠斗 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | うつ病 / Perry病 / iPS細胞 / 変異導入 / セロトニン神経 / 早老病 / MECP2 / Src |
研究実績の概要 |
うつ病は、特に先進国における高い生涯罹患率、長い治療期間、QOLへの多大な影響から重大な社会問題となっている。うつ病にはストレスなどの環境要因だけでなく遺伝要因も強く関わっていると考えられている。 そこで本研究では、うつ様症状が必ず現れる遺伝性疾患(Perry病)の病態メカニズムを解明するともに、遺伝性のうつ病だけでなくうつ病全般の治療にも適応できる新たな抗うつ薬の創出を目指している。申請者が既に樹立したPerry病変異導入iPS細胞をセロトニン神経へと分化させ、分化率を免疫細胞化学的手法により、神経機能を電気生理学的および生化学的手法により、それぞれ評価した。その結果、通常条件下では野生型と変異導入群において表現型に有意な差は認められなかった。Perry病の発症が遅いことから、in vitroモデルにおいても加齢状態を再現する必要があると考えられる。そこで、遺伝性早老病の原因タンパク質であるプロジェリンを発現させ、病態発症の早期化を図った。結果として、老化させた変異導入群でのみセロトニン陽性細胞数の減少という表現型が認められた。分化後20日目で見られたセロトニン陽性細胞数の減少は分化誘導14日目時点では認められなかった。そのため、神経変性が分化後14日から20日までの間に起きていることが示唆された。そこで、神経変性直前の細胞のmRNAを回収し、遺伝子発現変化を網羅的に解析した。その結果、MECP2経路の全体的な不活性化および、Src経路の活性化が認められた。また、並行して、G67D変異をヘテロに導入したノックインマウスの作成に成功した。今後は、MECP2の活性化及びSrc経路の阻害が観察された表現型を正常化するかを検討する。また、それらの処置後の神経機能を対照となるiPS細胞由来のものと同等であるか検討する。さらにin vivoにおいても同様の効果が見られるか検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で、本研究の進捗状況は概ね順調であると考えている。今年度までに、到達目標であったヒト表現型である神経変性を細胞モデルで再現することを、早老病の原因タンパク質であるプロジェリンを過剰発現することで達成した。加齢負荷をかけることで初めて神経変性が認められたことから、ヒトの発症の平均年齢が50歳であることと一致する表現型であると考えられる。そのため、今回作製できたPerry病モデル細胞の有用性が示唆されている。病態モデル細胞を用いた更なる検討の結果、神経変性が起こる直前での網羅的な遺伝子発現変動変化を解析することによりMECP2という遺伝子経路やチロシンキナーゼSrc経路がセロトニン神経変性メカニズムに関与する可能性を見出せている。さらに、ヒトiPS細胞で変異を導入できた手法をマウスにも応用することで、G67D変異をヘテロに有するPerry病 in vivoマウスモデルを作成することに成功した。これらの研究結果は、当初の到達目標より早く進捗している。一方で、もう一つの今年度到達目標であったG67D、Y78C以外の原因変異を導入したiPS細胞の作製には至っていないため、来年度以降検討していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果では、Perry病原因変異を有するiPS細胞由来のセロトニン神経は通常の分化条件下では野生型との間に表現型の差が見られないのに対して、早老病の原因タンパク質であるプロジェリンを過剰発現することにより早期老化を引き起こし、変異を導入群でのみセロトニン神経変性が認められた。このことからヒトの発症の平均年齢が50歳と遅いことと一致する表現型であると考えられる。更なる解析の結果、神経変性が観察された6日前の時点では顕著な神経変性が変異導入群においても認められなかった。その時点での遺伝子発現変動変化を網羅的に解析したところ、MECP2経路の減少及びチロシンキナーゼSrc経路の活性化がセロトニン神経変性に関わる可能性が示唆されている。来年度もこのMECP2経路に着目し、セロトニン神経変性メカニズムを詳細に解明する予定である。MECP2自体の発現に変化が見られず、その下流の経路が全体的に発現減少傾向を示している。さらに、Perry病で見られるDCTN1変異体は特異的に凝集体を形成することを見出しているため、MECP2がDCTN1凝集体に含まれることで機能が低下している可能性が示唆されている。そのため、MECP2とDCTN1タンパク質の相互作用について株価細胞を用いて詳細な検討を行う予定である。さらには、セロトニン神経が豊富に含まれる脳幹におけるMECP2の後天的なノックダウンにより呼吸異常が起こることから、MECP2の異常がin vivoマウスモデルにおいても見られるのか呼吸との関連が見られるのかを検討を行う予定である。並行して、チロシンキナーゼSrc経路の活性化に着目し、老化改善薬としても見出されているチロシンキナーゼ阻害剤がセロトニン神経変性を改善するのか検討する予定である。
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