究極理論の筆頭候補である超弦理論は,(ストリング)アクシオンと呼ばれる新粒子を予言する.アクシオンを検証する手段として,回転するブラックホール周りで自発的に生じるアクシオンの雲から放射される特徴的な重力波の観測が有力である.重力波検出の進展に伴い,このような重力波の観測も可能になりつつある.しかし,重力波検出に必要なアクシオン雲進化の理論予測は,自己相互作用に起因する複雑さのため不十分である.そこで,本研究では非線形な数値計算によりアクシオン雲の進化を追跡することを試みた.特に,従来から予想されている,ボーズノヴァと呼ばれる自己相互作用による引力が雲を崩壊させ,爆発的な重力波放射が生じる現象が起こるか否かについて検証した. 当初の予定通り,アクシオン雲の進化を追跡する非線形な数値計算手法を開発し,実際の回転 するブラックホール周りの自己相互作用するアクシオン雲へと適用した.この成果として,従来ボーズノヴァが起こると考えられていたパラメタ―領域では,自己相互作用が効率的な散逸プロセスを引き起こすことによって雲の成長が止まり,ボーズノヴァが起こらないことを示した.また,雲の終状態は,雲がブラックホールからエネルギーを引き抜くプロセスと,自己相互作用によるエネルギー散逸が釣り合った準定常状態であることが得られた. 最終年度においては,ブラックホールのスピン引き抜きも含めた準定常状態の進化を計算した.また,その計算結果をもとに,アクシオン雲が放射する重力波の強度と継続時間の見積もりを行った.その結果,現在観測されているようなブラックホール周りのアクシオン雲からはデシヘルツ帯でもっとも強い重力波が期待されることがわかった.
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