研究課題/領域番号 |
22J14296
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森田 雅登 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 樹状突起 / 膜電位蛍光イメージング / 海馬神経細胞 |
研究実績の概要 |
神経細胞の樹状突起は多数の枝分かれをもち、そこに他細胞から情報を受容するシナプスが無数に形成される。本研究では、神経細胞樹状突起のその特徴的な「かたち」が生み出す機能的役割の解明に焦点を当てて研究を行っている。本年度においては新規技術「細胞膜電位の蛍光イメージング」を用いて発見した、培養海馬神経細胞において「興奮性シナプス入力が神経細胞樹状突起で伝播方向依存的に異なった修飾を受ける」という新しい現象の分子メカニズムについて調べた。具体的には、様々な電位依存性イオンチャネルを薬理操作により阻害し、膜電位蛍光イメージングとスポットレーザー光によるケージドグルタミン酸の局所光活性化を組み合わせ、シナプス入力がどのように樹状突起内を伝播するかを時空間的に解析した。その結果、電位依存性Naチャネル及びK-ClトランスポーターKCC2が興奮性入力の樹状突起末端方向へ伝播する時の増幅に重要であることが分かった。さらに、KCC2がメカニズムとして寄与するしくみの究明を目指し、パッチクランプ記録を樹状突起に適用して樹状突起の静止膜電位を測定した。そして驚くべきことに、樹状突起では細胞体に比べ静止膜電位がより深いことも分かった。この傾向はKCC2を阻害した際に消失したため、樹状突起の深い静止膜電位は樹状突起の細胞内Clイオン濃度が低く抑えられていることにより作られることが示唆された。このKCC2が作る細胞内での低いClイオン濃度が興奮性入力の非対称な伝播時修飾の一因だと予想される。これらの実験結果はこれまで知られていない海馬神経細胞の情報処理機構の発見に相当すると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画として本年度は、興奮性シナプス入力が樹状突起の遠位方向に増大しながら伝わるという新規現象の分子メカニズムの同定を掲げていた。分子メカニズムの候補となる様々なイオンチャネルを薬理操作により阻害することで、テトロドトキシン抵抗性の電位依存性ナトリウムチャネル、及びK-ClトランスポーターKCC2の重要性を突き止めた。また、樹状突起にパッチクランプ法を適用して樹状突起の静止膜電位を記録することに成功し、細胞体に比べ樹状突起では静止膜電位が深いことも分かった。そして、KCC2を阻害することによりこの樹状突起での深い静止膜電位が消失したため、KCC2が作る低い細胞内クロライド濃度によって樹状突起での静止膜電位が深くなることが示唆された。この樹状突起での深い静止膜電位とナトリウムチャネルの活性化が樹状突起の遠位方向へ興奮性入力が増幅しながら伝わる要因だと考えられる。以上から、興奮性シナプス入力が神経細胞樹状突起で伝播方向依存的に異なった修飾を受けるという新しい現象の分子メカニズムの同定に成功しており、研究は計画通りに進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初の計画通り、令和5年度は「興奮性シナプス入力が神経細胞樹状突起で伝播方向依存的に異なった修飾を受ける」という新規現象が神経細胞でどのような機能的な役割を果たしているのかを検討する。具体的には、スポットレーザー光によるケージドグルタミン酸の局所光活性化刺激を樹状突起の複数箇所に適用し、複数の興奮性シナプス応答が樹状突起内で足し合わされる様子を膜電位蛍光イメージングにより記録する。細胞体から樹状突起の遠位方向へグルタミン酸を活性化した場合と、逆の順番で刺激をした場合で、脱分極の程度や神経発火への至りやすさに違いがあるかを調べる。また、今までに明らかにした伝播方向に依存した興奮性シナプス入力の非対称な修飾が生体内あるいは、その回路が保たれたサンプルにおいても同様に起きる現象であるのかは重要な問題である。そこで、脳スライス標本に膜電位蛍光イメージングを適用し、分散培養系と同じ現象が見られるか否かを検討することも予定している。こうして、神経細胞樹状突起の「かたち」が生み出す機能的役割の解明を目指す。
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