電気化学測定は、三極セルを用いて作用電極-参照電極間の電位差が一定に、すなわち作用電極の電位が絶対値的に一定なるように、作用電極-対極間の電位差を制御して行われる。2022年度はまず、古典分子動力学(MD)手法において絶対電位を制御した計算を行い、電極電解液界面挙動の電位依存性を調べた。三極測定実験と同様に、作用電極-対極間の電位差を自己無撞着的に決定することで、作用電極電位を0.1 V刻みで制御できることを示した。電位依存性のある物理量として電気二重層微分容量C(V)を計算した。金属電極の電子分極を司るパラメータを、従来の、電極を完全導体とした場合はC(V)は実験と定性的にも一致しない一方、量子化学(SCC-DFTB)計算の結果を再現するも のに変更することで、C(V)は増大し、ゼロ電荷電位(PZC)-0.2 Vで極大を示すようになる等、実験との一致が大幅に向上するこ とを示した。本成果は本報告書作成時点で論文としてChem. Phys. Lett.に投稿済み、査読中である。 次に、量子化学計算と古典MD法を組み合わせ、MM領域との相互作用を平均場的に量子化学計算に取り込むという近似(平均場近似)を加えたハイブリッド手法(平均場QM/MM法)に拡張した。QM分子としてグリシンを選び、その構造最適化計算を電位制御下で行えることを示した。結合角や結合長は電位変化に対して鈍感である一方、電極界面での電解質イオンの分布は電位に敏感に応答するため、それらとの相互作用を通してグリシンの電子分極は電位に敏感に応答することを示した。
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