研究課題/領域番号 |
22J14841
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松岡 巧朗 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 自然免疫様T細胞 / 抗原提示 / セルベーススクリーニング / 構造活性相関研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、粘膜組織において豊富に存在するmucosal-associated invariant T(MAIT)細胞に着目し、有機合成化学的アプローチによってその活性化剤を探索するものである。活性や物性、動態を含め、あらゆる側面から本化合物を最適化することで、将来的には新たな作用メカニズムを有するアジュバント候補化合物を開発することを目指している。 当該年度は、昨年度確立した独自のリガンドスクリーニング系と研究室の保有する化合物ライブラリーを活用し、食用植物や生薬などに含まれる成分を新たなリガンドとして同定することに成功した。また、モデル細胞株を用いた機能解析により、本化合物はMAIT細胞を活性化する作用を有していないものの、MAIT細胞への抗原提示を担うタンパク質であるMR1と結合してMR1の細胞表面量を上昇させる性質を有することが明らかとなった。さらに、本化合物の構造活性相関研究を実施することで、MR1の細胞表面量を上昇させる上で重要な部分構造を同定した。 これまでに報告されているMR1リガンドとしては、微生物代謝物に由来するものや、薬物などが報告されているが、今回スクリーニングによって見出したリガンドは、それらとは異なり、生薬や食用植物に含まれる植物性化学物質である。したがって、本研究成果は、MR1のリガンド認識だけでなく、生薬の作用メカニズムやMAIT細胞が関わる生命現象についても新たな知見を与えるものと考えられる。 今後は、今回新たに見出した化合物を起点として、アジュバント開発に応用可能な新規MAIT細胞活性化剤の開発を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画において、当該年度は「既知のMAIT細胞活性化剤をリード化合物とした構造展開」と「化合物ライブラリーのスクリーニングによる新規リガンドの同定」の二つを検討することを計画していた。当該年度は、このうち、後者を中心に研究に取り組んだ。 まず、以前確立したMR1リガンドの細胞ベースのスクリーニング系を活用して、所属研究室が保有する化合物ライブラリーのスクリーニングを行った。約1,800化合物に対しスクリーニングを実施したところ、食用植物や生薬などに含まれる化合物が新規MR1リガンドとして見出された。さらに、本化合物の構造活性相関研究を実施することで、MR1から抗原提示を受ける上で重要な部分構造を同定した。また、既知MAIT細胞活性化剤との競合実験や他のMHC分子への影響を調査することによって、取得した化合物が既知のMAIT細胞活性化剤と同じ結合ポケットでMR1と相互作用し、MR1特異的に細胞表面量を上昇させることを明らかにした。現在、本化合物を起点とした創薬への応用を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回独自のスクリーニング系によって取得した新規MR1リガンドについて、分子シミュレーションソフトを用いた相互作用解析、及び構造改変によるMAIT細胞活性化剤への変換を検討する予定である。 相互作用解析については、過去に報告されているMR1/既知リガンド二者複合体のX線結晶構造をテンプレートとして、今回見出した新規MR1リガンドの結合様式をシミュレーションする予定である。また、それを踏まえた上で、分子動力学計算を用いて、MR1の構造全体における動的な変化を解析することを計画している。その際、過去に報告されている様々な骨格を有する既知MR1リガンドも含めた包括的な解析を実施することによって、MR1の抗原提示という現象について分子レベルの知見を取得することを目指す。 また、構造改変によるMAIT細胞活性化剤への変換については、今回見出したリガンド上の適切な位置にT細胞受容体と相互作用可能なユニットを導入することを計画している。その際に、上記分子シミュレーションによって得られた知見を踏まえて合理的な設計を行うことによって、新たな骨格を有するMAIT細胞活性化剤の取得を目指す。
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