研究課題/領域番号 |
22J14850
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
内藤 アンネグレート素 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 絶滅危惧種 / 遺伝的多様性 / 生息域外保全 / 猛禽類 |
研究実績の概要 |
2022年度には、免疫・繁殖との関連が報告されている主要組織適応複合体(MHC)遺伝子と飼育下のイヌワシとの繁殖成績の関連解析を進め、結果をまとめた。新たに入手した飼育個体の試料をこれまでのデータと合わせて解析した結果、MHC遺伝子のDRBexon2領域の配列が異なるつがいほど繁殖成績が高いことを再確認できた。また、オスの年齢が高いほど繁殖成績が低く、血縁度やそのほかの要因とは関連がなかった。本研究の成果はイヌワシを飼育している動物園とも共有し、現在繁殖計画への応用について議論している。イギリスで開催された国際学会においても本研究の結果を発表し、近日中に論文を国際学術誌に投稿予定である。 また、MHC DRBexon2領域周辺の遺伝構造を調べるために長鎖配列の解読をと全ゲノムも解読も実施し、今後の多様性解析に応用するための重要なデータを得ることができた。野生下のイヌワシの解析については、フィールド調査と共同研究者との連携を通じて採集した野生個体21羽の試料で血縁度とMHC DRBexon2領域を調べ、遺伝的多様性を解析した。先述の飼育個体群との比較を通じ、遺伝的多様性と繁殖成功率の関連を現在検討している。 イヌワシと並行して、クマタカの遺伝解析も進めた。全国各地で採取された200近くの試料を入手した。クマタカでは個体間血縁度や集団の遺伝的多様性の研究が不足しているため、MHC遺伝子解読を進めながら、集団遺伝学的解析も実施した。MHC DRBexon2領域を39個体分、ミトコンドリアDNA調節領域を169個体分解読し、MHCとミトコンドリア領域における遺伝的多様性はいずれも高いことがわかった。さらに8個体分の全ゲノムも解読し、ゲノムワイドの多様性解析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総合的に順調に進展しているが、取り組んでいる解析によっては予定より遅れているものや進んでいるものがある。 1. 予定通りの解析:飼育・野生のイヌワシとクマタカの試料を採集し遺伝配列を解読した。 2. 予定より遅れている解析:野生下のイヌワシのつがいでMHCとその他の要因が繁殖に影響を与えているかを調べる予定であったが、つがいと正確に判断できるオスとメス個体の試料と、つがいの詳細な繁殖情報の入手が想像以上に困難だったため、飼育下で実施したようなつがい単位でのMHC遺伝子と繁殖成績との関連解析には着手できていない。今後共同研究者に追加の試料や情報が入手できないか相談する予定である。 3. 予定より進んでいる解析:クマタカのMHCと全ゲノム解読を予定より多くの個体で年度内に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、野生下のイヌワシとクマタカで繁殖成績とMHC遺伝子の関連を調べる。可能な限り飼育下と同様の手段でつがいレベルの関連解析を実施する予定であるが、野生下では飼育下のような詳細な繁殖データおよび個体情報(年齢、繁殖歴等)を得ることが困難であることが前年度に判明した。そのため、ヒナなどのつがい以外の個体も含め、地域集団全体の遺伝的多様性と繁殖成績を比較する。集団レベルの傾向を把握し、生息域内保全に活かせる基礎的な情報の獲得を目指す。 上記に加え、MHC遺伝子の多様性をイヌワシとクマタカで比較する。両種とも絶滅危惧IB類に登録されている山岳地帯の大型猛禽類だが、生態学的にも遺伝学的にも異なる点が多く、種の特徴を考慮した上で遺伝的多様性の保全をおこなう必要がある。そのため、本研究では2種の比較を通じて、両種の保全方策への貢献を目指す。上記で得られた結果は随時動物園やフィールドの共同研究者と共有し、保全への応用方法を検討する。また、研究成果は国際雑誌にて論文を投稿し、国内外の学会でも発表する。
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