研究課題
本研究では,ヒト乳幼児の向社会性,特に援助行動の表出メカニズムについて,乳幼児や養育者の個人特性などの関連要因に着目し明らかにすることを目指す.さらに,研究で得た知見を社会でどう活用するかを提案することも目標としてきた.具体的に,当該年度では以下3点を実施した.第一に,これまでに取得した,他者との行動同期経験が乳幼児の援助行動の表出に与える影響とその個人差に関する実験データについて再分析を行った.その結果,行動同期経験による援助行動の表出頻度の変化量には個人差があり,さらにそれは乳児の負の感情の気質特性と相関することが示された.第二に,2~4歳児の母親48名を対象に,母親の心理特性と育児支援ニーズとの関連を検討した.先行研究では,乳幼児の向社会性発達の個人差要因として,養育者の子どもへの関わり方などが影響することが示唆されていた.育児支援が充実し,養育者の子どもへの関わり方がよりよくなれば,乳幼児の向社会性発達が促進される可能性がある.質問紙で母親の心理特性と育児支援ニーズを調べた結果,母親の心理特性によって,子どもの泣き声を緩和する育児支援を求める程度に差が見られた.最後に,第一・第二の研究を踏まえ,育児支援ニーズを社会実装する際に必要となる視点を提案する展望論文を執筆した.同論文ではまず,過度な育児負担といった育児に関する問題を整理した.そして,これらの問題解決のためには,親子双方の心理特性や子どもの発達の個人差を考慮した個別型の育児支援を展開する必要があることを論じた.個別型の育児支援の実施により,親の養育行動を媒介して子どもの向社会性発達が促進される可能性が期待できる.以上の研究結果から,乳幼児の向社会性発達や乳幼児や養育者の心理特性には大きな個人差があり,今後,向社会性発達に関する研究においては,乳幼児や養育者の個人特性の多様さを考慮することの重要性が示唆された.
雑誌論文「ロボットによる育児支援のニーズに関する探索的検討 -母親の心理特性に着目して-」が、日本ロボット学会誌に受理済みである(著者:等々力 花歩, 松永 倫子, 明和 政子、査読付き).発行年数・ページ数・巻は未定.
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京都大学大学院教育学研究科紀要
巻: - ページ: 219-232