本研究課題の実施期間には、格子QCDからハドロン散乱を解析する方法であるHAL QCD法を用いてメソン-バリオン相互作用ポテンシャルを決定しΛ(1405)粒子を調べることを目指した。 課題開始年度である前年度は、3つのクォークの質量が等しい極限において、3点相関関数の数値計算を実施し相互作用ポテンシャルの導出を行った。得られたポテンシャルは特異的な振る舞いを持ち、有効的な束縛状態の導出が困難であることがわかった。 今年度には、複数の相関関数を用いたポテンシャルの特異性の解決方法を提唱した。そして、まずは4点相関関数と3点相関関数と組み合わせる方法を試みた。得られたポテンシャルの特異性は消えたが、2つの相関関数に含まれる束縛状態の成分が相殺し、有効的な束縛状態が導出できなくなることを発見した。次に、2つの3点相関関数を組み合わせることで、低エネルギーで有効な近似のもとで特異性の回避を試みた。これにより、近似的・部分的であるが、Λ(1405)粒子を構成する強い引力成分を持つ有効的なポテンシャルが得られた。これらの解析により、ポテンシャルの特異性は、Λ(1405)を構成する相互作用の非局所性である可能性が得られた。今後の課題として、HAL QCD法において分離型ポテンシャルを用いて非局所性を考慮することで、特異性のない有効的なポテンシャルの抽出を行う。さらに、将来的にはより現実に近いクォーク質量を用いた計算を目指す。 また今年度には、本研究で用いた解析手法を応用し、有限密度下のハドロンの性質を調べた。まず、HAL QCD法を有限化学ポテンシャル下に拡張し、ゼロ温度かつハドロン相におけるハドロン間相互作用の化学ポテンシャル非依存性を解析的に示した。また、将来的な格子計算との比較検証を目指し、有効模型を用いて有限密度2カラーQCDにおけるベクトル中間子の振る舞いを調べる共同研究を行った。
|