研究課題/領域番号 |
22J15214
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
多田 光史 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | ダイズ茎疫病 / Phytophthora sojae / 植物体上の傷 / 癒傷反応 / リグニン / 環境要因 |
研究実績の概要 |
癒傷反応がダイズ茎疫病(茎疫病)発生に及ぼす影響を明らかにするため、ダイズ品種エンレイの胚軸に傷処理を行い、0~24時間後に湛水を伴う茎疫病菌接種を行った。対照区として無傷個体にも菌接種を行った。その結果、傷処理個体の8~94%が枯死し、傷処理から菌接種までの間隔が長くなるほど枯死率が低下した。傷処理20時間後以降に菌接種を行った場合、無傷個体と同程度の枯死率となった。このことから、傷の発生から20時間以内に湛水が生じると感染リスクが高くなると考えられた。また、今回の接種方法は、接種開始から24.5時間で菌が植物体に侵入すると考えられることから、癒傷反応は44.5時間ほどで完了していると考えられた。 枯死率の低下をもたらす癒傷物質を明らかにするため、リグニンとスベリンに着目して、傷処理後蓄積に要する時間を調査した。ダイズ個体に傷処理後、0~216時間目に傷部分を採取した。傷処理を行った箇所の胚軸横断面の切片を作成し、リグニン、スベリンをそれぞれ特異的に染色した。表皮・皮層細胞のうち、傷に接する細胞に着目し、染色された細胞数が占める割合を染色割合として算出した。リグニンは早くから蓄積し、スベリンはリグニンに比べて遅くに蓄積を開始した。染色割合が約80%となるまでに、リグニンでは40時間、スベリンでは96時間を要した。第一の実験の結果と合わせて考えると、茎疫病発生を低減する癒傷物質はリグニンである可能性が高いと考えられた。また、 3日間湛水処理を傷処理直後から行った場合、傷処理24時間後から同湛水処理を開始した場合と比べて、リグニンの蓄積が緩やかになる傾向がみられ、湛水処理が癒傷物質の蓄積に影響を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、ダイズ茎疫病に及ぼす癒傷反応の影響を調査し、癒傷反応により茎疫病発生が低減しうること、さらにその原因物質がリグニンである可能性が高いことが明らかになった。さらに、リグニンの蓄積動態に湛水処理が影響を及ぼすことが明らかになり、環境要因が癒傷物質の蓄積に影響を及ぼすことが確認された。以上のことから、本研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の結果より、リグニンの蓄積が茎疫病発生を低減する可能性が高いことが明らかになり、湛水処理のタイミングがリグニン蓄積に影響を及ぼすことが明らかになった。しかし、湛水処理に関しても検討が不十分であり、土壌養分などの湛水処理以外の環境要因については未検討である。そのため、リグニン蓄積に着目し、より迅速な癒傷反応を実現しうる環境要因の探索を行う。 また、圃場抵抗性と癒傷反応との関係は明らかになっていない。そこで既知の圃場抵抗性と癒傷反応との間に関係があるのかを調査するため、異なる圃場抵抗性を示すダイズ数品種を供試して、リグニンの蓄積動態を調査する予定である。
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