傷口へのリグニン蓄積が茎疫病による枯死率を低減することを検証するために、リグニン生合成阻害剤を用いた検証を行った。ダイズ品種エンレイの幼苗の胚軸に貫通傷を与え、傷口にリグニン生合成阻害剤であるα-アミノオキシβ-フェニルプロピオン酸(AOPP)、または対照区としてエタノール(EtOH)を処理した。傷処理30~48時間後まで6時間ごとの傷部分のリグニン蓄積、およびその時の茎疫病による枯死率を別の実験から調査した。AOPPを処理した方はEtOHを処理した場合に比べて、リグニン蓄積が遅れ、枯死率が低下しなかった。このことから、癒傷過程にみられる、茎疫病による枯死率の低減にリグニン蓄積が寄与していることが強く示唆された。 また、迅速なリグニン蓄積をもたらす環境要因を明らかにするため、異なる施肥条件(N:P2O5:K2O = 0:0:0 (0N)、 3:0:0 (1N)、 6:0:0 (2N)、 3:10:10、 6:10:10、 6:20:20 g m-2)と大気相対湿度(平均99%の高湿区と平均77%の低湿区)のもとでの、傷口へのリグニン蓄積を調査した。傷処理後12~48時間において、傷口へのリグニン蓄積は時間の経過とともに上昇した。24~36時間において高湿区のリグニン蓄積が有意に高くなり、その高湿区において、24~32時間の平均値を施肥条件ごとに算出すると、0Nで最も値が高く、1N、2Nと窒素施肥量が多くなるに従い低くなった。以上より、リグニン蓄積が高湿条件および無施肥条件で促進されることが示唆された。 本研究により、ダイズ茎疫病発生を低減させうるダイズの癒傷反応の原因物質がリグニンであることを強く示唆し、高湿および無施肥条件で迅速に蓄積されることを明らかにした。しかし、これらを栽培技術に応用するには、他の環境要因も含めた検討が求められる。
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