本研究の目的は、企業の海外生産を考慮した貿易一般均衡モデルを構築することと、このモデルを応用し、原産地規則の経済厚生に対する影響を数値計算の手法を用いて分析することである。 1点目の目的については十分に達成された。初年度は企業が利潤を最大化するように生産拠点の立地国を選択すると仮定した先行研究のモデルに、企業が生産を行う際に各産業から調達した中間財を投入する産業連関の設定を導入したモデルを構築し、今年度はそのモデルのパラメータ推定の精緻化に取り組んだ。初年度は企業の生産性や外国に生産拠点を設立するための固定費用に関するパラメータの値を先行研究の推定値で代用していたが、今年度は経済産業省の海外事業活動基本調査の個票データから日本企業の海外拠点における売上高等のデータを取得し、先行研究の手法に従いつつ独自のデータを用いて推定を行った。このように、本研究のデータと整合的な推定値を用いることでより正確な分析が可能となった。また、追加の反実仮想分析も行った。初年度はモデルから得られる理論的な仮説を検証するための実験的な分析のみを行ったが、今年度は原産地規則に関する分析を見据えて、現実の政策に関する分析に取り組み、特にイギリスのEU離脱の影響を分析した。主な結果として、イギリスとEUの間で貿易が制限されたとき、貿易に代わる供給手段としてイギリスとEUの間の海外生産が増加することが明らかとなった。また、当初の研究実施計画通り、本研究成果をまとめた論文を、学会で得られた意見をもとに修正しつつ作成した。 一方で、2点目の目的である原産地規則の分析については、ベースとなるモデルに原産地規則に関する設定を組み込むことが非常に困難であったため、研究実施計画通りの進捗を得ることができなかった。改善案として、ベースのモデルを根本から簡略化した上で、原産地規則の設定を導入する必要がある。
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