研究課題/領域番号 |
22J15867
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲葉 明彦 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管上皮細胞 / オルガノイド培養系 / 腸管Tuft細胞 / ゲノム編集 / CRISPR-Cas9 |
研究実績の概要 |
腸管Tuft細胞は、受容体を介して寄生虫や微生物由来の腸内物質を化学的に認識し、分泌因子によって免疫細胞の活性化等を誘発することが、最近マウスを用いた研究で明らになった。一方で、ヒトを含む霊長類における腸管tuft細胞が同等の性質を有するかについては不明な点が多い。本研究では、ヒトに近縁な非ヒト霊長類を用いて、霊長類におけるTuft細胞の機能解明を目的とした。 当該年度においては、まず、申請者らが報告した手法を用いてアカゲザル(Macaca mulatta)及びニホンザル(Macaca fuscata)の腸管組織から作製した腸管オルガノイドを培養し、同培養系に対して、CISPR-Cas9システム等を応用して遺伝子改変を行い、Tuft細胞特異的にレポーター遺伝子(蛍光物質・薬剤耐性遺伝子)を導入した新規解析系を樹立を行った。具体的には、Cas9タンパク質および標的遺伝子特異的gRNAを発現するCas9ベクター、レポーター遺伝子配列を含むノックインドナーベクターをそれぞれを設計し、エレクトロポレーション法を用いて細胞内に導入した。その後、薬剤選択培養によって遺伝子導入された細胞株を選別した。得られた薬剤耐性細胞株からゲノムDNA抽出し、それらを鋳型に遺伝子挿入領域をPCRおよびサンガーシーケンシングによって解析した結果、ターゲットゲノム領域に対する外来DNA配列の欠損のない挿入を確認した。ノックイン細胞株においてTuft細胞分化誘導培養を行った結果、オルガノイド中に蛍光物質陽性細胞の出現を確認した。またそれら陽性細胞がTuft細胞マーカー分子を共発現することを免疫蛍光染色によって確認した。したがって、マカク腸管オルガノイドにおいてTuft細胞を特異的に標識した新規遺伝子改変株の樹立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度においては(1)遺伝子改変技術を応用した新規Tuft 細胞解析系の構築、(2)非ヒト霊長類における腸管Tuft細胞の遺伝子発現パターンの特定を目的として研究を実施し、最終的に遺伝子改変細胞株の樹立を行うことができたものの、同培養系を用いた腸管Tuft細胞の遺伝子発現パターンの特定までは進めることができなかった。 この理由として、各種実験過程において条件検討に時間を要したことが挙げられる。特に、エレクトロポレーション法を用いたオルガノイド細胞へのベクター導入過程では、最適な導入条件の設定のために、オルガノイド培養系の安定化、実験タイミングの最適化、電圧条件の最適化といった多くの事項の検討が必要であった。また、各検討実験には多量の細胞数が必要であったため、十分な細胞数を確保するために細胞培養期間を延長して実験を進めた。結果として、十分な結論を得るために当初の想定よりも長い実験期間を要した。これらのことから、現在の進捗状況は当初の予定よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当該年度中に達成できなかった、非ヒト霊長類における腸管Tuft細胞の遺伝子発現パターンの特定を進めて、応答メカニズムの推定と検証を行う。具体的には、樹立した遺伝子改変細胞株において、フローサイトメーターを用いてTuft細胞画分およびそれ以外の細胞画分をそれぞれ単離して、網羅的な遺伝子発現解析を実施する。結果より、霊長類Tuft細胞の発現遺伝子プロファイルを構築して、Tuft細胞特異的な機能受容体を選定する。さらに、カルシウムイメージングをベースとした物質応答解析系の構築を行い、各種リガンド物質を用いた腸管Tuft細胞における物質応答解析を行う。具体的には、腸管オルガノイドの二次元培養を行い、同培養条件下においTuft細胞を効率よく分化させる条件を検討する。最適化した条件において、カルシウムインジケーターを細胞へ導入し、各種リガンドに対する腸管Tuft細胞内のカルシウムイオン濃度の変化をモニターし、物質応答パターンを解析する。同時に、応答時にTuft細胞から分泌される物質を同定するため、培地成分をELISA法またはLCMS等を用いて、分泌因子の解析を行う。これらを通して、霊長類における腸管Tuft細胞の分子特性を明らかに、生体内における機能解明を目指す。
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