腸内において腸管上皮細胞は物質の認識と応答に広く関わる。近年のマウスにおける研究によって、腸管Tuft細胞が、寄生虫感染時に腸内の免疫細胞の活性化に関わることが分かってきた。一方で、ヒトを含む霊長類において、腸管tuft細胞が同様の性質を有するかについては不明な点が多い。本研究では、ヒトに近縁な非ヒト霊長類であるアカゲザル(Macaca mulatta)及びニホンザル(Macaca fuscata)を対象に、霊長類における腸管Tuft細胞の分子発現パターンおよび細胞機能の解明を目的とした。 最終年度においては、前年度から引き続き、各マカクザルの腸管組織からマカク腸管オルガノイドを作製し、同培養系において腸管Tuft細胞特異的解析系の樹立と解析を行った。マカク腸管オルガノイドに対してゲノム編集を行うことで、腸管Tuft細胞特異的にレポーター遺伝子を導入した遺伝子改変腸管オルガノイドの樹立に成功した。Tuft細胞に導入した蛍光シグナルを指標に解析を進めたが、蛍光強度が想定よりも弱く、当初の目標であった腸管tuft細胞における分子発現パターンの同定には至らなかった。同レポーターの発現は内在性プロモーター活性に依存しているため、現在、レポーターの改良を含めて検討している。 研究年度全体を通じて、非ヒト霊長類に由来する腸管上皮細胞のin vitro解析系において、外来遺伝子の導入およびゲノム編集による特定細胞の標識に成功し、細胞特異的な解析基盤の構築を達成した。これらの成果を国際学会にて報告し、現在、学術論文の投稿を準備している。ヒト霊長類はマウスに比べて進化的にヒトと近縁であることから、ヒトに類似した腸管機能を有していると考えられる。したがって、本研究の成果は、ヒトを含む霊長類において、従来は解析が困難であった腸管上皮に存在する希少細胞の性質や機能の解明に貢献すると考えられる。
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