研究課題/領域番号 |
22J15887
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 一樹 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | がん / 大腸がん / 乳がん / 脂肪酸 / 脂肪酸受容体 |
研究実績の概要 |
脂肪酸受容体は、食由来脂肪酸をリガンドとするGタンパク共役型受容体(GPCR)であり、脂肪酸をシグナル伝達物質として、全身の生体調節機構を制御する。 大腸がんにおいて、ω3系脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸が抗腫瘍効果を示すことが複数のグループから報告されている。しかしながら、GPR40・GPR120などの中・長鎖脂肪酸受容体を含む、他の脂肪酸受容体については、腸管の内分泌細胞にその発現が確認されているものの、個体を用いた関与はあまり研究されていない。 今年度は、中・長鎖脂肪酸受容体であるGPR40・GPR120に着目し、GPR40・GPR120遺伝子複数欠損マウス(以下:GPR40/GPR120 DKOマウス)を用いたDextran Sulfate Sodium Salt(DSS)を飲水投与およびAzoxymethane(AOM)の皮下投与による大腸がんを誘発モデルにおいて、野生型マウスと比較した高脂肪食負荷試験のがん進展への影響について検討を行った。結果、予想に反してGPR40/GPR120 DKOマウスではDSSおよびAOMによる大腸がんの発症前に、すべての個体が死亡した。その要因は、GPR40による腸管保護作用の欠損により、腸粘膜上皮での炎症性腸疾患症状の発症段階で、個体の生存性が著しく低下していることが推測された。 そこで、がん発症モデルとして、マウス乳がん由来E071細胞の乳腺移植による乳がん発症モデルマウスを作成し、同様の検討を行った。その結果、乳がんモデルにおいてGPR40/GPR120 DKOマウスでは野生型マウスと比較して、検剖時に摘出した腫瘍重量が著しく増大していた。以上の結果から、食由来長鎖脂肪酸によるがん進展には、GPR40・GPR120 を介した制御機構が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画調書に記載した2022年度における研究計画では、1)脂肪酸受容体遺伝子欠損マウスにおける大腸がんモデルの作出およびAPC変異マウスとの交配による遺伝子変異大腸がん発症モデルの作出、2)大腸がん発症マウスを用いた食負荷試験によるがん進展へ影響する食因子選別、を計画していた。 1)については、中・長鎖脂肪酸受容体:GPR40/GPR120 DKOマウスにおいて、DSS+AOM誘発生の大腸がんモデルマウスと、マウス乳がん由来E071細胞の乳腺移植による乳がん発症モデルマウスの作出を行った。その結果、GPR40/GPR120 DKOマウスではDSSおよびAOMによる大腸がんの発症前に、すべての個体が死亡した。その要因として、腸粘膜上皮での炎症性腸疾患症状の発症段階で、GPR40による腸管保護作用の欠損により、個体の生存性が著しく低下していることが推測された。一方で、乳がんモデルにおいては、GPR40/GPR120 DKOマウスでは野生型マウスと比較して、検剖時に摘出した腫瘍重量が著しく増大していた。 2)については、GPR40/GPR120 DKO乳がんモデルマウスにおいて、野生型マウスと比較した高脂肪食負荷試験のがん進展への影響について検討を行った。結果、野生型マウスにおいても腫瘍重量の増加が確認できたが、GPR40/GPR120 DKOマウスでは腫瘍重量はより大きく増加することが確認された。腸管細胞に比較して、乳腺付近ではGPR40・GPR120の発現量は少ないことにもかかわらず、乳がん腫瘍重量が増加していることは、腫瘍周辺組織における脂肪酸受容体の関与が推測される。今後は、乳腺周辺組織における脂肪酸受容体発現量の検討、および高脂肪食負荷試験により生体内濃度が増加する脂肪酸種のリガンド刺激によるがん進展への影響を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
乳腺周辺組織における脂肪酸受容体発現量については、野生型マウスの通常食負荷試験検体および高脂肪食負荷試験検体の検剖時に、乳腺および乳腺周辺の脂肪組織などの組織を摘出する。これらの組織において、RT-qPCR法にてGPR40およびGPR120のmRNA量発現量の変化を比較することで、乳腺あるいは乳腺周辺組織でのGPR40・GPR120の発現量および発現量変化を検討する。また、野生型マウスとGPR40/GPR120 DKOの乳がん発症モデルにおいても同様に検討を行い、乳がん発症による後発的なGPR40・GPR120の発現量変化を確認する。 高脂肪食負荷試験により生体内濃度が増加する脂肪酸種のリガンド刺激によるがん進展への影響については、LC-MS/MSを用いた質量分析方によって、高脂肪食負荷試験により生体内濃度が増加する脂肪酸種を同定する。その結果に基づき、マウス個体においてはin vivo試験では、通常食および単独の脂肪酸負荷試験による乳がん進展への影響を検討する。また、ヒト大腸がん由来DLD-1細胞あるいはHCT-116細胞、ヒト乳がん由来MDA-MB-231細胞を用いてGPR40・GPR120の発現量を確認したのち、in vitro試験において、単独の脂肪酸刺激による細胞生存生および細胞増殖への影響を評価する。得られた結果により、脂肪酸受容体のリガンド刺激によるがん進展に関与する分子シグナル機構を解析する。
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