ミトコンドリアは生体エネルギー(ATP)の主たる産生の場である。ミトコンドリアの呼吸鎖酵素(複合体-I~V)は医農薬類の魅力的な創薬標的であり、多くの阻害剤が開発されている。本研究では、呼吸鎖複合体-Iの新規阻害剤の探索および既知阻害剤の合成法の開発を行うことによって、複合体-Iの基礎研究の進展や新規薬剤の創出に貢献することを目的として、以下の2項目に関する研究を実施した。 【1. ビススルホンアミド構造を持つ新規複合体-I阻害剤の同定】低分子化合物ライブラリーのスクリーニングの結果、複合体-Iを標的とするユニークな対称ビススルホンアミド阻害剤[KPYC01112 (1)]をヒット化合物として同定した。構造活性相関研究により、1より約60倍強力な阻害活性を持つ新規スルホンアミド誘導体2および3を見出した。また、誘導体3をテンプレートとする光反応性プローブ(4)を使用した光親和性標識実験を行った結果、4は複合体-Iを構成する45個のサブユニットのうち、キノン結合ポケットを構成する49-kDa、PSST、ND1の3つのサブユニットに結合することを明らかにした。 【2. 金触媒を用いた連続環化反応を基盤とした海洋産天然物caulerpin骨格構築法の開発】八員環構造を持つ海洋産ビスインドールアルカロイドcaulerpinは、呼吸鎖酵素に作用して低酸素誘導因子(HIFs)の産生を抑制することが報告されている。本項目では、caulerpinの多様性志向型合成法の確立を目指し、金触媒による連続環化反応を鍵とする新規caulerpin骨格構築法の開発を行った。基質の置換基および反応条件を種々検討した結果、金触媒の配位子としてMe4(t-Bu)XPhosを用いることで、インドール4位の反応による副生成物の生成を抑制し、目的の骨格を持つ八員環化合物を選択的に76%の収率で得ることに成功した。
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