近年,都市再生や環境施策の一つとして道路空間の再編が注目されているが,プロジェクトの実現にあたり多主体協働や合意形成において困難に直面する場合が多い.本研究では,海外複数都市における先進的な空間再編事例を対象とし.デザイン案の形成過程や計画調整,合意形成における課題とその解決方法を詳細に分析した. 2023年度は,実現する空間のタイプ(歩車共存道路,歩行者専用道路,広場等)に応じて異なる合意形成の要点の抽出と構造化を行った.2022年度の研究成果を踏まえ,道路空間再編に特有の課題である「Place(場所性)」「Access(車両の利便性)」「Safety(交通安全性)」のトレードオフ関係の調整という分析のフレームをもとに,ベルギー・ブリュッセル市のアンスパッハ通りにおける祝祭広場創出事例の分析を行った.また,スイス・ベルギー・フランス・オーストリアの諸都市における「出会いゾーン」の適用によるシェアードスペースの導入事例について,各国の交通規則やガイドラインなどの制度設計とその運用実態,デザインマネジメントに関して詳細な分析を行った.分析の結果,都市の変革や道路の新たな価値創出に結びつくような創造的なデザイン解を導くための計画手法として,まず目指すべき都市や空間の将来の目標像=ヴィジョンを共創し,実現の道筋を未来から逆算して取り組むような,ヴィジョン・ドリブンのプロセスの設計が要点となることを明らかにした. 研究期間全体を通じた成果として,ヴィジョンやデザインの考え方に立脚するプロセスの設計においては,行政による計画の策定に先立つ多主体の参加と共同での目標像検討の場の設定,利害関係者となる市民,関係主体と行政との対話の場の設定, デザイン導入を通じた目標像の成熟の機会の設定,計画・設計条件の順応的な調整や検討案の評価を行う際の指標の設定が有効であることを明らかにした.
|