研究実績の概要 |
本研究では,福島の生態系において森林域から生活圏に食物網を介して移行・分散する放射性セシウムの量と経路を観測で示し,各生物種が持つ放射性セシウム濃度特性の要因を検証し,放射線生態リスク評価に応用するため,フィールド調査および分析を行なった. フィールド調査では,2022年6月から2023年10月にかけて,福島県内の各サンプリングサイトでサンプルの採取を行った.水域では,河川水,河床堆積物,一次生産物(藻類,リター),消費者(水生昆虫類,魚類,甲殻類),捕食者(水生昆虫類,魚類)などを採取した.陸域では,土壌,一次生産物(植物,リター),植食者(昆虫類),腐食者(昆虫類,環形動物),捕食者(昆虫類,クモ類,両生類)などを採取した. サンプルの放射能測定や炭素および窒素安定同位体比分析を行うことにより,淡水魚類体内の放射性セシウム濃度に影響を及ぼす要因として,栄養段階より餌資源の方が有力であることが示唆された.魚類体内の放射性セシウムは主に節足動物から移行していると考えられるが,今後はより多量・多種のサンプルを用いて同様の測定を行ない,詳細な移行経路の把握に繋げることを目指す. また,本研究の結果から高濃度放射性セシウム粒子が地上徘徊性甲虫に取り込まれる可能性が示唆された. 高濃度放射性セシウム粒子の取り込みは昆虫個体の放射性セシウム濃度に影響を与え, 土壌と同程度に高い濃度をもたらした. 高濃度放射性セシウム粒子は食物網を介して陸上および水生生態系の生物に取り込まれる可能性があるため,このような取り込みと放射性セシウム濃度測定への影響についてはさらなる調査が必要であり, 昆虫の上位捕食者や, 土壌の影響をより受けていると予想されるミミズなど, 対象を拡大しての調査を行う必要がある.
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